本社機能や法的登記を海外に移転する「ウォッシング」の実態とは(イラスト/井川泰年)
米トランプ大統領による関税政策で世界各国が対応を迫られている。その裏で“隠れ中国企業”が急増したと指摘するのは、経営コンサルタントの大前研一氏。日本にも多く進出しており、不当なビジネスの温床になっているケースもあるという。中国企業の“国籍ロンダリング”の実態について大前氏が解説する。
“隠れ中国企業”が急増した背景
「トランプ関税」が二転三転している。トランプ大統領は昨年1月の就任後、追加関税措置を矢継ぎ早に繰り出した。しかし、すでに本連載で述べたように、国際緊急経済権限法に基づく国別の相互関税にも、1974年通商法122条を根拠にすべての国からの輸入品に150日間限定で10%の関税を課す大統領令の発動にも、裁判所が違法判決を下した。
通商法122条に基づく関税措置は7月24日で期限が切れるため、USTR(米通商代表部)は同法301条に基づく「貿易相手国の不公正な取引慣行」を根拠に60か国・地域に対して最低10%、最高12.5%の新たな関税措置を検討しているが、その実効性は疑わしい。トランプ関税は当初の怒濤の勢いが影を潜め、尻すぼみになっているのだ。
一方、そのトランプ関税に敏感に反応し、素早く対応したのが中国企業である。まさに「上に政策あれば下に対策あり」の伝統を体現した“隠れ中国企業”が急増したのである。
私が設立したBBT(ビジネス・ブレークスルー)大学総合研究所の調査によれば、昨年1月の第2次トランプ政権発足以降、本社機能や法的登記をシンガポールに移転した中国企業が約7000社もある。いわゆる「シンガポール・ウォッシング」と呼ばれる動きだ。
その理由は、トランプ大統領が一昨年の大統領選挙で中国に60%の関税を課すという公約を掲げていたこと、そしてシンガポールはトランプ政権が昨年4月に国別に税率を定めた相互関税の対象になっていなかったことである。前述の一律10%関税はシンガポールにも適用されたが、それでも中国に対する現在の実効税率(21%)の半分だ。
