臨床能力の低い医師が増えていると話題に上ることも多いという(イメージ)
「自称エリート医師」が増えるにつれ、医師と患者の信頼関係という医療現場で最も重要な関係性がなくなってしまっている。臨床教育ができる教員減少の背景には、「プライバシーの侵害」を恐れた政策が医療現場の足を引っ張っている現状があるという。96歳の内科医で、元東京大学健康管理センター教授の坂本二哉(つぐや)氏の著書『戦慄の東大病院』(飛鳥新社)より一部抜粋して再構成。【全3回の第2回】
プライバシーを気にして切れかかる患者との絆
個人主義的で利己的な考え方をする自称エリート医学生や医師が増えるにつれて、医療界は様変わりした。典型的なのがカルテの在り方で、患者を知るためのカルテでなくなっている。たとえば家族の病歴(家族歴)を書き込む欄が消えている。家族歴を聞き出すことが「プライバシーの侵害」に当たると考える医師や厚労省の役人が増えたことが原因だろうが、これは医療的にも明らかな誤りである。
高血圧患者の治療一つとっても、家族歴の把握は不可欠だからだ。たとえばある高血圧患者の祖父母と両親(合計6人)のうち3人が脳血管障害になったとすると、その患者も将来、同じ経過をたどる可能性が極めて高い。これは家族の病歴を聞きさえすれば得られる貴重な医療情報である。それを聞かないことが医療的に正しいはずがない。
また職歴の記載欄もなくなってしまった。職歴は極めて重要だ。たとえばアスベストの作業に関わる仕事かどうかは診断時に絶対に必要な情報である。職歴欄がないのでそれすらわからない。単に公務員とか会社員だけでは意味がない。
そもそもプライバシーを気にして家族歴や職歴すら聞けない医師が、患者と向き合って信頼関係を築けるのだろうか。医師と患者の絆が切れかかっているように私には思える。
「うちの大学には授業料だけ払って遊んでいる大量の医大生がいる。僕の仕事で一番重要なのは、毎月、父兄を集めて『車を持たせるな』、『遊興を禁止せよ』、『女性に近寄るな』と訓示をすることなんだよ」
これは私の同輩の某私立大学病院副院長兼教授の言葉だが、この大学には国家試験不合格者だけのクラスがあった。このような医学生が将来、患者のことを親身に考える医師になるだろうか。そう考えた彼は、素行の悪い医大生には極力その是正に努めたが、結局、「いまどきの医学生」に絶望して大学を退職し、開業してしまった。
