入浴中に熱中症になるシニアは少なくないという(イメージ)
例年、寒い季節になると入浴中の事故が多くなる。厚生労働省人口動態統計(令和6年)によると、「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」の死亡者数は 7776人。交通事故死が3511人であることを踏まえると、2倍以上が浴室内で亡くなっていることになる。
入浴中の死亡理由として、メディアがさかんに取り上げるのは、急な温度差による血圧の急激な変化を指す「ヒートショック」というワードだろう。だが、鳥取大学医学部教授で法医解剖医、『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)の著者でもある飯野守男氏(55)は、「言葉が独り歩きしている」と警鐘を鳴らす。真に怖いのは、入浴中の「熱中症」だという――。【法医解剖医が見た「異状死」の現場・全4回の第1回】
入浴中の死亡=「ヒートショック」説の謎
法医解剖医の仕事は、すでに命を終えた人の肉体に向き合い、「なぜ死にいたったのか」という問いに答えること。交通事故、自殺、時には残酷な殺人事件の犠牲者など、普通の死ではない「異状死」の真実を明らかにすることを使命とします。そうした「異状死」の中で、近年明らかに多いのが、入浴中の死亡です。
実は、たとえ亡くなった場所がお風呂であっても、医師が死亡診断書に「病死」と書けば、統計上「病死」としてカウントされ、お風呂で亡くなったという「事実」は残りません。ただ、現在私が鳥取県警と連携して調べているところによれば、少なくとも県内に関しては明らかに入浴中の死亡が多い。それも、70歳以上の高齢者ばかりです。
入浴中の死因というと、「ヒートショック」という言葉を聞いたことがある方も多いかと思いますが、そもそも「ヒートショック」って、いつ誰が言い出したのかわからない言葉が独り歩きしているんですよね。実は我々も、一体どんな状態なのかがよくわかってない。
どうやら、「ヒートショック」とは温かいお風呂と脱衣所での冷たい外気とを行ったり来たりする際の寒暖差により、血圧が急激に変化する現象のことを指すようですが、じゃあそういう状況で死亡したら、死因は「ヒートショック」なのかといえば、違います。「ヒートショック」で亡くなるということが、医学的に証明されているわけではないのです。
中山美穂さんが亡くなった時に「ヒートショック説」が取りざたされましたが、おそらくきちんとしたマンションにお住まいでしたでしょうから、お風呂から出た時に(寒暖差で)凍えるほど寒くなるはずがない。救急医学会などの調査でも明らかなこととして、救急搬送されるのは大体長風呂をしている人で、搬送時に高体温なんです。実際の入浴時の死亡原因は、実は「熱中症」によるものが多いんです。
『法医学教授が教えている 死体の授業』の著者でもある、法医解剖医で鳥取大学医学部教授の飯野守男氏
なぜ「追い焚き」が危ないのか
【著者プロフィール】
飯野守男(いいの・もりお)/鳥取大学医学部法医学分野教授、副学部長。1971年鳥取県米子市生まれ。鳥取大学医学部を卒業後、大阪大学大学院で博士号を取得。京都大学助教、大阪大学講師、ビクトリア法医学研究所(オーストラリア)客員研究員、慶應義塾大学准教授を経て、2015年に現職に就任。医学生向けの死体の講義(法医学の講義、実習)が人気を博している。鳥取県唯一の法医解剖医として、県内の死体検案・解剖を一手に引き受ける傍ら、死後CT診断の第一人者として、オートプシー・イメージング学会副理事長も務める。ドラマ監修やテレビ出演も複数。著書に『死因不明社会2 なぜAiが必要なのか』(講談社刊、海堂尊らと共著)など。単著は『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)が初となる。

