大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

政府が初認定した大阪IR計画は“捕らぬ狸の皮算用” 「年間来場者2000万人などあり得ない」と大前研一氏

大阪IR計画の懸念点は?(イラスト/井川泰年)

大阪IR計画の懸念点は?(イラスト/井川泰年)

 政府は、大阪府と大阪市が2025年「大阪・関西万博」後の夢洲に誘致を目指しているIR(カジノを含む統合型リゾート)計画を初めて認定した。カジノやホテルなどをエンターテイメント施設は2030年の開業を目指す。これらの施設には、年間約2000万人の来場者、売上高は約5200億円を見込んでいるというが、経営コンサルタントの大前研一氏は、これは「捕らぬ狸の皮算用」であると、運営の先行きを懸念する。大阪IR計画にどういった問題があるのか、大前氏が解説する。

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 カジノは世界的に斜陽産業であり、大手の「ラスベガス・サンズ」や「ウィン・リゾーツ」でさえ、いまや赤字になっている。

 しかも、カジノの稼ぎの95%はハイローラー(大金を賭ける客)のVIPルームだが、大阪の1つの指標になるマカオは、中国本土からマネーロンダリングのために通っていた汚職役人のハイローラーが習近平政権の「腐敗撲滅運動」で消え、売り上げが激減した。

 日本生産性本部の『レジャー白書2022』によると、日本はパチンコ・パチスロの市場規模がピーク時の半分以下になったとはいえ14兆6000億円に達し、公営ギャンブル(競馬・競艇・競輪・オートレース)の売り上げも約7兆円なので、海外からはハイローラーが多いように見えるのかもしれない。だが、私が海外のカジノを現地調査したところ、日本人は賭け金が小さいザラ場(平場)の客がほとんどだった。そんな客がいくら来てもカジノは儲からない。

 さらに、入場料が外国人観光客は無料なのに、日本人・在日外国人は6000円だ。私はラスベガスやマカオ、シンガポール、韓国、モナコ、オーストラリア、エストニアなどで何度もカジノを見学したが、自国民から高額な入場料を取るカジノはシンガポールくらいである。

 また、近隣にあるUSJは1日券(大人は8600~9800円)だけで基本的に多くのアトラクションを楽しめるが、カジノの場合は入場料以外に賭け金が必要だ。かてて加えて、今は海外に合法的なオンラインカジノもあるから(日本での利用は違法だが)、6000円も払って繰り返しカジノに足を運ぶ日本人がそう多くいるとは思えない。

USJを大幅に上回る集客力?

 そもそも大阪IRは想定しているような客がいるのかどうか、甚だ疑問である。

 問題はカジノだけではない。国際会議場に人が来るのはイベントの開催期間中だけだし、そのイベントを開催する能力を持った企業は世界的に限られている。エンターテインメント施設もラスベガスのように集客力があるショーを1年中上演するのは難しいだろう。

 計画では、年間1400万人の日本人が来場すると試算しているわけだが、これは日本の総人口1億2447万人(2023年4月1日現在)の1割以上である。リピーターがいるとしても、この数字は荒唐無稽ではないか。

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