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誤用である「連絡させていただきます」はなぜなくならないのか? 日本語に蔓延する“過剰な敬語”問題

相手への敬意のつもりで使った表現が…(イメージ)

相手への敬意のつもりで使った表現が…(イメージ)

 相手に失礼のないように、より丁寧な言葉づかいをしようと考えるひとは多いだろうが、日本語の敬語は、多用しているうちに徐々に平凡化していき、敬意が感じられなくなる側面があるという。日本語には、そんな「敬意低減の法則」が強く働いていると指摘するのは、新刊『世界はなぜ地獄になるのか』が話題の、作家・橘玲氏だ。最近の日本語にまつわる複雑な問題について、橘氏が解説する。

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 敬語についての講演会で、受付で「受講票を確認させていただきます」といわれた年配の参加者が激怒した。この男性は、講演後の質疑応答で「私には許可を与える権威があるわけでもないのに、そんな言い方をするのは失礼ではないか」と講師に問い質した──。

 言語学者・椎名美智が紹介している例だが、なにが問題になっているのかわからないひとも多いのではないだろうか。同様に、「連絡させていただきます」「メールをお送りさせていただきます」など、ごくふつうに使われている表現も「誤用」とされる(*参考:椎名美智『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』角川新書)。

 不祥事を起こした政治家が「反省させていただきます」「謝罪させていただきます」などというと、どこか嘘くさく感じられる。芸能人の「入籍させていただきました」に違和感を覚えるひとも一定数いるだろう。SMAPが2016年に解散を発表したときは、「解散させていただくことになりました」というマスコミ向けの文面が話題になった。

 文法的には、「させていただく」は使役の助動詞の「させる」と、授受動詞の「いただく」を連結の「て」でつなげたものだ。「させる」は、「子どもに部屋の掃除をさせる」のように、相手がなにかの動作をするように働きかける(強制する)ことで、指示する側(自分)が上、指示される側(相手)が下になる。「いただく」は「もらう」の謙譲語で、相手から一歩下がった立場で、目上の者からなにかを受け取るときに使う。この組み合わせによって、「相手になにかをさせる」という使役の意味が逆転し、「目上の者の好意によって、なにかをすることを許してもらった」という効果が生じる。

 ここから、「させていただく」は本来、相手の許可が前提になっていることがわかる。正しい使い方か誤用かは、疑問形にできるかどうかで簡単に判別できる。

 高価な骨董品を「拝見させていただきます」というときは、「拝見してよろしいでしょうか」と言い換えても構わない。それに対して、政治家が「反省させていただきます」と答弁するとき、「反省してよろしいでしょうか」と国民に訊ねているわけではない。これを不快に感じるのは、反省しているふりだけして、一方的に自分の都合を押しつけているからだ。──SMAPの「解散させていただきます」が痛々しかったのは、関係者の許可を乞うているように感じられたからだろう。

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