大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

大前研一氏 「大阪・関西万博」は大失敗して税金の無駄遣いに終わるが、誰も責任を取らないだろう

誰も責任を取らない国

 とりわけ大阪・関西万博が成功しないと考える根本的な理由は、大阪府・市、国、経済界の責任者たちが「マスからパーソナルへ」と変化したマーケットを全く理解していないことだ。

 広告宣伝・販促手法は不特定多数に同じ情報を同時に送る「ブロードキャスティング」から特定セグメントの人たちを対象にした「ナローキャスティング」に移行し、さらに現在はターゲットを1人1人の個人に絞り込んだ「ポイントキャスティング」の時代になっている。つまり「世界の皆さん!」「全国の皆様!」と呼びかけるブロードキャスティングではなく、「あなただけに」「あなたのために」と呼びかけるポイントキャスティングが極めて重要で、実際、そういう商品やサービスが人気を集めている。

 さらに、今の時代は現地・本物だからこそのリアル感、ライブ感が求められている。たとえば、アメリカの歌手テイラー・スウィフトの北米ツアーはチケット売上高が約3200億円に達した。

 あるいは、私が“追っかけ”をしているバイオリニスト・樫本大進氏が第1コンサートマスターを務める「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」の日本公演チケットは発売開始から15秒で売り切れたという。ベルリンフィルの演奏は月20ドルでテレビ視聴できるが、それでもライブで聴きたい人が山ほどいるのだ。

 その一方で、人々は「自分が欲しいもの」を見つける時はネットを駆使している。ニーズによってリアルとネットを使い分けているのだ。そういう時代に“偽物”の寄せ集めでしかないプレハブ・張りぼての大阪・関西万博に行きたいと思う人が、どれほどいるのか、大いに疑問である。

 従来なら、こうした国家的イベントは大手広告代理店の電通が裏で根回しや口利きをすることで何とか体裁を保ってきた。しかし、今は東京五輪の談合事件でそのマシーンが機能停止状態になり、それを代替できるような広告代理店はない。

 したがって、大阪・関西万博は大失敗して税金の無駄遣いに終わると思う。だが、そうなったとしても、岸田首相はもとより西村康稔経産相も、日本維新の会の馬場代表も吉村洋文共同代表も、万博協会の十倉雅和会長(経団連会長)も、誰も責任を取らないだろう。

 一過性のイベントで、失敗することが明らかな万博に巨額の税金を浪費することに対し、なぜ国民とマスコミが怒って反対しないのか、私は不思議でならない。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。最新刊は『シニアエコノミー:「老後不安」を乗り越える』(小学館新書)。

※週刊ポスト2023年10月6・13日号

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