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【止まらない円安】それでも日銀が緩和政策変更を急がない理由とは? 最大の目標は「実質賃金の上昇」

 アメリカでもインフレ率は4%を割る状況になり、日米のインフレ率はほぼ同水準になってきたが、緩和を続けている日本と利上げを続けたアメリカで金利差は大きくなっている。アメリカはインフレの鎮静化を迎えようとしており、来年には利下げの声も聞かれている。

 この日米の金利差が円安ドル高の原因と仮定すると、アメリカの利下げが行われれば、日銀が何もしなくても金利差が縮小していくと考えられる。おそらくこのことも日銀がどっしりと構えていられる1つの根拠になっているだろう。

 日本はディマンドプル型インフレを起因とした2%のインフレ目標を達成したいと考えており、そのためには、「実質賃金の上昇」が重要といえる。

 実質賃金とは、実際に受け取った給与である名目賃金から、インフレ率を差し引いて算出したものである。現状、日本の実質賃金は17ヶ月連続でマイナスが続いているが、その実質賃金が上がれば、多くの人々が支出を増やし、インフレ目標を達成できるという理論である。

 金利差が拡大し、円安ドル高によって物価が上昇してしまっても、それを上回る賃金を獲得する環境を作るためには、政策を動かすべきではないというのが日銀の考えだろう。

日銀が政策変更すれば物価は安定するのか?

 日本のインフレ率は政府の掲げた目標を17ヶ月連続でクリアしている現状も踏まえれば、「日銀は政策変更し利上げに転じるべきだ」という考えが出てきてもおかしくない。

 この考えの大前提には、日本が利上げすることによって円安から反転し円高になる、そのことで物価が安くなるという見込みがあってのことだろう。

 しかし、「日銀が政策変更すれば円安ドル高は収まる」という考えは、論理の飛躍ではないだろうか。これでは為替は根本的には金利差のみで決定されるという理屈になってしまっており、論拠不十分と言える。

 資本はよりリターンの高いところに流れるという理屈で考えれば、利息のない日本ではなく、高い金利を払ってくれる海外に資産が流れることは極めて自然である。昨今のドル預金の増加はそれを示したものと言える。

 しかし、資本の流れは金利だけでは動かない。経常収支や貿易収支、政権への期待や政策といった要素も大きな為替変動要素であることは間違いない。

 例えば、「貿易」はシンプルに資本の移転が行われる典型例と言える。最近の日本では、自動車生産の回復やPC出荷台数の下げ止まりが海外収益増加につながっている。また、訪日外国人の増加により「インバウンド消費」と言われる莫大な収益機会を得ることに成功している。

 その一方で、デジタル関連等のサービスで言えば、Google、Apple、Zoom、Netflixといった巨大テック企業を中心に日本からアメリカに多くのサービス料が払われている。また、当然のことながら、中東などから原油を買うために年間で兆単位の支払いがある。このような支払いは生活や仕事に欠かせないものであり、大きな貿易赤字を未来永劫続けていく相手国もある。

 このような貿易による資本の流れも、為替の決定に大きな影響を及ぼしている。

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