乗客が指示を待つ機内には徐々に煙が満ち、「助けて」と泣き叫ぶ子供の声も聞こえた。呼吸も苦しくなるこのタイミングで、乗務員同士が大声で確認し合う声が響いた。
「R3開けません」
「L3ダメです!」
この時、8人の客室乗務員は「どの非常ドアから脱出するか」を冷静に見極めていた。
「機内に8か所ある非常ドアのうち、今回は安全な3か所のドアを開けてお客様を誘導しました。非常ドアは一か八かで開けるのではなく、炎や燃料漏れがなく、スライドスペースが確保できるかを目視で確認して判断します。乗務員同士が情報を共有し、脱出直前に適切な確認作業ができていたのです」(香山氏)
脱出劇は「奇跡」ではなく、まさに日頃の訓練の積み重ねの成果だった。
取材/竹村元一郎
※週刊ポスト2024年1月26日号
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