脂質異常症の予防と治療の基本は、「食事」「運動」「禁煙」
動脈硬化による発病を予防するために日本動脈硬化学会が科学的根拠に基づき作成した診療指針。脂質異常症の診断や治療はこのガイドラインに沿って進められる
脂質異常症の予防・治療の基本は、食生活習慣の改善にあります。「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の2025年度版には、LDLコレステロール値が140mg/dL以上の高LDLコレステロール血症の重症化予防として「コレステロールを200 mg/日未満に留めることが望ましい」と記載されています。
毎日の食事を振り返り、「何を摂り過ぎているか」「何が足りていないか」を考え、足りない食品を補うことでLDLコレステロールの上昇を抑制することが大切です。トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を多く含有するクッキーや生クリーム、乳製品などはLDLコレステロール値を上昇させるので、摂り過ぎていると思ったら量を減らします。
また、食物繊維は糖やコレステロールの吸収を抑えるので、LDLコレステロール値の上昇だけでなく、LDLコレステロールの糖化変性も抑える可能性があります。アブラナ科に含まれるスルフォラファンや玉ねぎに含まれるケルセチンなどの成分には、体内での糖化反応を抑える働きがあることがわかってきました。これらの機能性の食材をたっぷり食べることで、糖化を防ぎLDLコレステロールの変性を抑える生活習慣にすることが重要です。
炭水化物の摂り過ぎは、肥満や糖尿病を引き起こし、中性脂肪の上昇にも繋がります。過食を避け、座りがちな生活を見直しましょう。とくに精製された糖質の過剰摂取には注意が必要です。また、有酸素運動は善玉のHDLコレステロールを上昇させることが知られています。運動習慣を身につけ、適正体重を維持しましょう。
脂質異常症には自覚症状がほとんどありませんが、脂質異常症が長年続くと動脈硬化が進行し、10年後、20年後に心筋梗塞や脳梗塞に繋がる危険性が高まります。将来の健康のためには、次に挙げるポイントを意識し、かつ、継続することが重要です。
・過食を控え適正体重を維持する
・野菜や食物繊維をたっぷり食べる
・有酸素運動を毎日30分する
・喫煙習慣があれば禁煙する
・肉の脂身や乳製品など、コレステロールや飽和脂肪酸の多い食品を減らす
・トランス脂肪酸の多い加工食品は控える
日々の食事に気を配り、運動習慣を継続すれば、充実した人生が送れます。
「有酸素運動は善玉のHDLコレステロールを上昇させることが知られています。運動習慣を身につけ、適正体重を維持しましょう」と語る山岸教授
【プロフィール】
山岸昌一(やまぎし・しょういち)/昭和医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授。1989年金沢大学医学部卒業。同大学講師、米国ニューヨーク、アルバートアインシュタイン医科大学留学を経て、久留米大学医学部教授を10年以上勤め、2019年より現職。糖尿病患者の老化に関連するAGE(終末糖化産物)を長年研究し、世界最大規模の学会である米国心臓協会最優秀賞ほか、日本糖尿病学会学会賞、日本抗加齢医学会学会賞などを受賞。『老けない人は何が違うのか』(合同出版)、『糖から学ぶ老いを撃退する生活術』(Amazon電子書籍)など著書多数。
■前編記事:自覚症状がないため放置されやすい「脂質異常症」 コレステロールの異常が動脈硬化を引き起こし心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める【専門医が解説】
取材・文/岩城レイ子