現役塾講師の東田氏のもとには、ほかにもこんな事例が寄せられているという。
「保護者の方から聞いた話ですが、『3年前に子供が中学受験で失敗して、地元の公立中学に進学し、今年、都立高校に合格して進学することになった。その合格発表があった後、中学受験のために通っていた塾から電話がかかってきて、どこの高校に受かったかを聞き出そうとしてきた。本当に迷惑だった』と言っていました。
私はこの話を聞き、3年前まで通塾していた生徒の合格まで塾の実績にしようとしているのかと呆れました。もしその生徒が、開成高校や日比谷高校など難関校に合格していたら、小学校の頃に通っていた塾が、合格実績にカウントするのでしょう。他にも、講師が塾生に、同じ学校に通っていて、昔その塾に通っていた同級生の志望校と合否を聞き出したりする塾もあるようです」(東田氏)
塾が生徒や模試利用者の「合否情報」を集めたがる理由
合否情報というのはセンシティブな個人情報なので、さすがに本人に無断で、塾の教室に「○○さん△△校 合格」などと氏名を張り出したりはしないだろう。だが、知らないうちに合格実績にカウントされ、その塾の宣伝に利用されるとしたら、本人もいい気はしないはずだ。
一方、塾にとって「合格実績」は、生徒を獲得するうえでの重要な宣伝材料ではある。できるだけ有名校の合格者を多く見せたいというのが本音かもしれない。全国学習塾協会が制定した合格実績算出の基準は、あくまで自主基準であり、強制ではないうえ、塾が協会に非加盟ならなおさら関係ない。「自社の合格実績算出基準」を明示したうえで、合格者数を掲示するのであれば、法的には問題ないとされている。
しかし、2011年に消費者庁は、首都圏で予備校を展開している2社と関西の予備校1社が、提携塾の合格者数を重複カウントして合格実績を水増ししているとして、不当景品表示法に基づく改善措置命令を出したことがある。やりすぎれば、消費者庁の指導が入る可能性はあるし、学習塾業界への信頼も失われてしまう。
中学受験の大手塾が誇っている難関中学校の合格実績の数字を合計してみると、中学校が公表している合格者数を超えてしまうという不可解な現象が起きている。関連記事《大手中学受験塾の「合格実績」の合計が実際の合格者数を上回るのはなぜか? SAPIX、早稲アカ、四谷大塚、日能研にアンケートしてわかった「カウント方法」の抜け道》では、首都圏大手の中学受験4社へのアンケート調査をもとに、合格実績のカウント基準について検証・レポートしている。
取材・文/清水典之(フリーライター)