高校受験において“塾推薦という裏ルート”が存在するとの声がある(写真:イメージマート)
高校受験が変わろうとしている。4月22日、石破茂首相は「デジタル行財政改革会議」で公立高校受験の際に1校しか出願できない「単願制」を是正するよう閣僚らに指示した。公立高が単願制であることから確立したのが私立高の「併願受験」に関する様々な制度だ。中学校側と高校側が連携するなどして、生徒の進学に向けた手続き・入試が行なわれてきたが、その裏側で、“別のルート”が存在してきたと指摘する声がある。フリーライターの清水典之氏が、公表データや識者らへの取材をもとにレポートするシリーズ「中学受験の“不都合な真実”」。今回は特別編として「高校受験」において“塾推薦という裏ルート”が横行している現実についてレポートする。
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「学力が高く、模試では好成績の子でも、音楽や体育などが苦手だったり、宿題や提出物を出さなかったりすると、中学校の内申点が下がり、『併願優遇』で合格を取れる私立高校が限られてきます。そうした状況から生まれてきたのが、“塾推薦”という高校受験の裏ルートです」
そう指摘するのは、『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)著者で、フォロワー5万人超のXアカウント「東京高校受験主義」を運用する現役塾講師の東田高志氏だ。私立高校受験における「併願優遇」とは、大まかに言えば、受験した高校がすべて不合格になり進学先がなくなる事態を防ぐ制度である。
「併願優遇」(または合格確約)と同様の制度は、東京に限らず、多くの地域で導入されている。第一志望校(主に公立高校)を受験する前に、滑り止めの高校の合格を確保するため、その高校と中学校の担当者が協議して、個々の生徒について内申点等を基準に、ほぼ合格を確約するしくみだ。併願優遇の合格を出すのは、一般に学力水準(受験偏差値)で中堅から下位の私立高校で、対象となるのは、その学校よりも上のレベルの高校を第一志望として受験する予定の内申点の基準を満たした生徒である。
高校側としては「合格をほぼ確約するかわりに、併願先(第一志望)に落ちたら、うちの学校に必ず来てください」という形で、学力優秀な生徒を確保する狙いがあり、生徒側としては滑り止め校の合格を得たうえで、第一志望にチャレンジできるというメリットがある。
先述した通り、併願優遇では基本的に内申点(中学3年間における各科目の成績を点数化したもの)が基準になる(基準点数は各校が公式サイトや学校説明会などで公表している)。学校によって差があり、「5教科で23以上、または9教科で42以上」(各教科5段階評価)といった高い基準の学校もあれば、「3教科で10以上、または5教科で16以上」という学校もある。
そのため、模試で好成績を挙げる学力優秀な生徒でも、内申点が低いと併願優遇で受験できる高校は限られてくる。しかし、東田氏はこう言う。
「私が知っているのは都内のケースですが、併願優遇の裏ルートとして“塾推薦”がある。大手の進学塾と私立高校が連携し、内申点は低いが模試の成績はいい塾生を塾が高校に推薦し、学校が併願優遇での合格を確約する。生徒は内申点で判定する“正規のルート”では取れない学校から併願優遇が取れ、高校側は大学進学実績に貢献してくれそうな生徒を確保できる。両者にとってメリットはあるが、これは私学協会(一般社団法人東京私立中学高等学校協会)が定めたルールに違反する行為です」
私学協会は“塾推薦”の実態について把握しているのか。そもそも、“塾推薦”がルール違反になるのか。私学協会副会長の長塚篤夫氏は筆者の取材にこう答えた。