きれいに苗が植えられた田んぼ
重労働なのに儲からないコメ農家
今回しみじみと実感したのは、農家は決して暴利をむさぼっていないということです。何しろ農家がJAに卸す金額は決まっており、暴利のむさぼりようがない。昨年から続くコメの高騰について山崎家の家長・Sさんはこう言いました。
「コメが高い、と文句を言う人が多いが、コメは値下がりしたままそれが続いていただけ。他の商品は軒並み値上げをしていたけど、コメは規定の価格があるから上がっていなかった。コメの価格が上がるのは普通のことです。私達はただ作るのみ。市場価格とは関係ないところにいた。むしろ、安過ぎる状況が続いていただけなんですよ。そして、これから下がるかもしれませんが、それは私達がコントロールできる話でもない」
全国のコメ農家は、後継ぎがいないため廃業する例が多いといいます。それは、コメ農家には多額の設備投資が必要で、キツイ割りにはあまり儲からないことの表れでしょう。私も今回半日手伝っただけですが、とにかく体がしんどかった。重労働過ぎるのです。苗の入った重い容器を軽トラに移し、それを田植え機に移す作業ですが、この晩は12時間寝てしまい、翌朝は足が筋肉痛になっていた。
田植えを手伝った筆者
ネットには「風物死」という不謹慎なスラングがあります。毎月何らかの理由で人が亡くなることを面白おかしく表現するものですが、夏の時期は「台風の時に田んぼを見に行って死んだ」というものが入ります。「なんで危険な時に見に行くんだよwwww」などと嘲笑の対象になりがちですが、コメ農家からすると、自身の収入のため、そして消費者のために様子を見に行く行動は必要なものです。何か手を打てないか、あるいは打たないでもいいのか、その判断をするための行動が「田んぼを見に行った」なのです。
色々なことは現場で体験しないと理解できません。コメの高騰について、私は農家を批判する気にはなれません。コメについては複雑な事情がありますよね。思い返すと、昭和の時代は、一部で「コメを食べるとバカになる」という説がまかり通り、学校給食でも炭水化物はパンと麺が中心でした。私が1980年から1984年まで通った川崎市立の小学校は一切コメなし。1984年から1986年まで通った立川市立の小学校では、1週間に1回だけでした。
家ではコメを食べているのになんで学校では食べられないの? と思ったのですが、コメは政治にも教育にも利用されるほど日本人にとって強固な存在なんだろう、と今回の田植えを通じて感じました。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。