50代後半の自社先輩はどうなったか
ミドル世代の転職希望者の方々と面談してきて、改めて強く感じるのは、そもそも「キャリアについて考え始めるタイミングが遅すぎる」ということです。
たとえば、58歳、59歳になって初めて、「そろそろ定年後のキャリアを考えたい」「60歳以降もバリバリ働ける会社はないか」「できれば同業種に転職してこれまでと同じように働き続けたい」と考え始める方が珍しくないのです。
決して世間知らずな訳ではなく、大企業で長く活躍してこられた方であっても、定年直前の年齢でも当たり前のように希望通りの転職ができると考えていることが多いのです。
しかし、定年を60歳としているのは、ほとんどの会社も同じです。自社で長年貢献してくれた人材を定年で送り出しておきながら、特殊なスキルがあるわけでもない50代後半の社員を定年に関係なく迎え入れる、そんなことがあるでしょうか?
こういう状況を見て素朴に感じるのは、自社の先輩を見てこなかったのか、という不思議さです。どんな企業でも、自社で一緒に働いてきた5歳上、10歳上の先輩方がいたはずです。その先輩たちが50代後半以降、どんなキャリアを選択してその後、どうなったのか。最も身近な事例として、先輩たちの背中をなぜ調べてみないのでしょうか。
今や多くの会社が、定年を、ソフトランディングにするための役職定年制度を50代で設けています。部長級に上がっていても一定の年齢で役職が解かれ、第一線を外れて、後輩たちに権限を委ねることになる。部下が上司になるということに、プライドを傷つけられる人もいるようですが、その段階で年収が半減するというようなケースはほとんどないはずです。
ところが、60歳になれば、いったん定年を迎え、65歳まで嘱託社員として雇用が延長になるケースが多い。こうなれば、年収は半減近くまで、あるいはもっと落ち込むことも多くなります。このタイミングで「この給料ではやっていけない」と強いショックを受けるという声もよく聞きます。
しかし、そんな状況がやってくることは先輩の姿を見ていれば、あるいは会社の定年制度を調べておけばわかったはずの事実なのです。それを知らないままで定年直前まで進んでしまうのは、自己責任の側面があると言われても仕方がありません。
※黒田真行・著『いつでも会社を辞められる自分になる』(サンマーク出版)より一部抜粋して再構成
【プロフィール】
黒田真行(くろだ・まさゆき)/ミドル世代専門転職コンサルタント。1965年兵庫県生まれ、関西大学法学部卒業。1988年、リクルート入社。以降、30年以上転職サービスの企画・開発の業務に関わり、「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」HRプラットフォーム事業部部長、「リクルートメディカルキャリア」取締役などを歴任。2014年、リクルートを退職し、ミドル・シニア世代に特化した転職支援と、企業向け採用支援を手掛けるルーセントドアーズを設立。30年以上にわたって「人と仕事」が出会う転職市場に関わり続け、独立後は特に数多くのミドル世代のキャリア相談を受けている。著書に『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』(クロスメディア・パブリッシング)、『35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)など。