年金改革法案には遺族年金の給付水準を大幅カットする改悪が含まれている(石破茂・首相/時事通信フォト)
「あんこが入っていないあんパン」と批判された年金改革法案が、修正を経て、自民・公明・立憲民主の3党で今国会で成立させることで合意した。
政府は5年に一度行なう年金の「財政検証」(2024年)で、現行制度のままでは基礎年金(1階部分)の支給水準はどんどん低下し、2057年には現在より3割低くなるという見通しをまとめた。あれだけ「100年安心」と宣伝しながら、今になって年金危機は深刻化するというのだ。基礎年金の低下はとくに非正規雇用が多いとされる氷河期世代を直撃するという。
厚労省はそれを理由に元サラリーマンらが受け取る厚生年金の報酬比例部分(2階部分)などを減額し、その財源で基礎年金を底上げする年金改革案をまとめた。ところが、自民党内では「有権者の反発を呼び、参院選にマイナスだ」との声があがり、いったん法案提出見送りが決まった。それに対して野党が「法案を出さないなら厚生労働大臣の不信任案を出す」と反発すると、やむなく基礎年金底上げ案を削除した法案を提出したのだ。
結局、少数与党の国会審議では、石破政権がこの基礎年金底上げ策の復活を求める立憲民主党の要求に応じて法案の修正を進めるという点が注目を集め、新聞・テレビの報道もそこに集中した。だが、真に注目すべき点は他にもある──。
夫に先立たれた時に60歳未満の妻は遺族年金を5年間しかもらえなくなる
公的年金制度は、老後の生活保障の機能を有するだけでなく、「家計の担い手」に万が一のことがあった場合に家族の生活を保障する「生命保険」としての役割も担っている。それが残された家族に支給される「遺族年金」だ。国民が支払う年金保険料には、いわば“生命保険特約”分の保険料も含まれていることになる。
ところが、今回、与党が提出した法案には、その遺族年金の給付水準を大幅にカットする改悪が含まれている。年金制度に詳しい“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。
「現行制度では、夫に先立たれた時に30歳以上だった妻(18歳未満の子供がいない場合)には、夫の厚生年金(報酬比例部分)の『4分の3』の額が遺族厚生年金として生涯にわたって支給されます。
今回の法案には、その受給期間を『原則5年』へと大幅に短縮する内容が含まれているのです。現在は夫に先立たれた時に30歳未満だった妻は5年間の有期支給ですが、この5年支給の対象年齢が2028年4月からは40歳未満へと拡大される。そして、50歳未満、60歳未満へと段階的に引き上げられます。最終的に、夫に先立たれた時に60歳未満の妻は遺族年金を5年間しかもらえなくなるということです」