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ビジネス
令和の米騒動

《結果的にまた高値になる》小泉進次郎・農水相が打ち出した備蓄米放出の新方式に潜む落とし穴 「備蓄米が尽きてコメ価格が上がるのを待つ」業者の思惑

高値で仕入れている業者はみんな大損を抱えることに

 さらに、市場関係者の間からは、政治的な価格介入が予期せぬ副作用を生む可能性も指摘されている。ある農水省関係者は、このような状況に対する懸念を以下のように語った。

「もし、本当にお米の値段がドーンと下がったら、JAはじめ、今年から米を高値で仕入れている流通業者や食品メーカーなんかは、みんな大損を抱えることになります。せっかく高い金出して仕入れたのに、急に安売りしろと言われても……。となると、彼らは大損して安値で手放すよりは、政府備蓄米の放出が終わって、またお米が高くなった時になるまで、倉庫に寝かせて様子を見ることになるでしょう。そうなると、市場に出回るコメの量が逆に減ってしまって、結果的にまた高値になるってことも考えられるわけです。

 その間、保管料やその他の経費もどんどんプラスされていく。政府が今回出す備蓄米の数量は、日本のコメ流通全体から見れば、実はそこまでものすごく大きい量ではないので、影響は軽微なんじゃないかと思われる節もあるんだけど、市場の動きは本当に神経質で、政治が変なボールを投げ込むと、何が起きるかわからない。関係者はみんな固唾をのんで見守っている状況です」

 このコメントが示唆するように、政治的な価格介入は市場参加者の経済合理的な行動を歪め、かえって市場の供給を停滞させるリスクを孕んでいる。高い価格で仕入れた業者が損失を回避するために売り惜しみをすれば、低価格の備蓄米が放出されても、他のコメの流通が細くなり、結果として価格が再び高騰するという皮肉な結果を招く可能性も否定できない。

 日本の農政は長年にわたり、過度な保護と行政の統制によって、農家や流通業者の自立した経営努力や市場競争力の向上を妨げてきた歴史がある。補助金や関税といった非競争的な手段は、国際競争から国内産業を隔離し、革新を鈍らせた。市場の自由な力が農業成長に正の効果をもたらすという世界の知見に背を向け、今回のように価格への直接介入という、市場経済とは相容れない手法に頼ることは、日本の農業が抱える構造的な問題をさらに根深くする危険な道ではないか。

 国民の不安を解消するという緊急性は理解できるが、市場原理を無視した弥縫策が、長期的な市場の歪みや混乱を招き、「亡国の道」につながるのではないかという懸念は深まるばかりである。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

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