Lifesaver(ライフセイバー)SIMが開発した人命救助を学ぶための没入型ゲームベースシミュレーション。モバイル向けで兵士たちが場所を選ばず救護スキルを学べる環境を提供している
兵士が「スマホ」で学習
「(2014年のロシアによるクリミア併合から)11年間、戦争が続き、愛する者たちが毎日、死んでいるからだ」とドワーフ・エンジニアリングの創業者CEOヴラディスラフ・ピオトロフスキー氏は説明する。
ドワーフ社が開発しているのはジャミング(電波妨害)に耐性を持つドローンだ。無線とGPSを使って操縦するドローンを無効化するのがジャミングである。2022年のロシア侵攻当初、ウクライナはロシアによるジャミングで「70%のドローンを失った」(ピオトロフスキー氏)。
同社は画像認識で目標を見つけた後は、事前に設定したルートと行動ロジックによって半自律的に動作するソフトウェアを開発した。電波が遮断された状態でも自律的にミッションを遂行するという。
タブレット端末に映し出されるウクライナ兵は左脚を撃たれ、地面に横たわっている──。傷口から大量に出血していて息が荒く、胸も激しく上下している。ここは戦場なのか。近くで砲弾の炸裂音が響く。
まるでソニーのプレイステーションの一場面だ。負傷者にどんな姿勢を取らせ、どこを止血し、どの薬剤を使うのか。対処を誤ると警告が点滅し、正しい方法が指示される。
このソフトウェアはLifesaver(ライフセイバー)SIMが開発した人命救助を学ぶための没入型ゲームベースシミュレーション。共同創業者のユーリー・ディヤチシンは言う。
「戦場で負傷した兵士の処置をするのは、必ずしも医療従事者ではありません。隣にいる者がファーストレスポンダー(第一救護者)になります。ウクライナでは戦闘・戦術を教えるのが精一杯で、救護スキルを教えている余裕がない。我々のソフトを使えば、兵士はスマホやタブレットを使って学べるので、作戦行動を妨げることなく救護スキルを身につけられます」
今回、各社を日本に招いたのは楽天グループだ。同社の会長兼社長の三木谷浩史氏は2023年9月、キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領や兼ねて親交のあったフェドロフ副首相と面談した。ネット起業家だったフェドロフ氏は2019年、28歳でデジタル変革大臣に任命され、ロシア侵攻後はサイバー戦争を指揮してきた。
三木谷会長とフェドロフ副首相
今回の来日は「ウクライナ侵攻の早期終結と、経済復興に貢献したい」という三木谷氏の意思で実現した。今まさに戦時下にあるウクライナの防衛テックはAIとドローンによる「新しい戦争」に突入している、という現実を日本に示した。
DSEIで22日にスピーチした石破茂首相は「安全保障環境は厳しさを増している」とし、「装備協力は自国だけでなく、同盟、同志国の抑止力を強化する取り組みになる」と語った。しかし、我が国に「新しい戦争」への備えはあるのか。
取材・文/大西康之(おおにし・やすゆき):1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日経新聞編集委員などを経て2016年に独立。著書に『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)、『最後の海賊 楽天・三木谷浩史はなぜ嫌われるのか』(小学館)など。
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※週刊ポスト2025年6月20日号