医療ミスにもある「日米格差」
医療ミスで患者が死亡したケースはどうなるか。
「基本的に交通事故と同じで、高収入の被害者ほど逸失利益が高額になり、賠償金は高くなる傾向があります。かつては女性の就労継続可能性が低く見積もられていましたが、いまは専業主婦や無職でも就労可能性があったとみなされれば、平均賃金をもとに逸失利益を算出します。例えば2005年に、20代後半の専業主婦が医療過誤で死亡した際は、当時の女性の平均賃金を基礎に逸失利益を認定する判決が出ました」
ただし医療ミスは認定が困難な面もあると指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。
「死亡賠償金が支払われるのは医療過誤が認められた場合に限る。遺族は病院側に落ち度があったことを立証する必要があります」
最近の例では、2023年8月に愛知県の小牧市民病院で水頭症の10代女性が手術後に亡くなったのは医療ミスが原因として2024年11月、病院が遺族に2850万円の損害賠償金を支払うことで和解が成立した。
他方、医療ミスにも「日米格差」はあるという。
「日本では交通事故を基準にして死亡慰謝料は最大2800万円ですが、アメリカは上限がなく、医療事故でも億単位の慰謝料が認められることがあります。この格差について、“日本は命の値段が安い”と批判する法曹関係者もいます」(室井さん)
殺人などの被害者の遺族には、犯罪被害給付制度によって国から遺族給付金が支払われる。昨年6月、給付金の算定方法が見直され、例えば20才未満の場合、従来の320万円が1060万円に引き上げられた。弁護士法人・響の弁護士・古藤由佳さんが語る。
「給付金額の算定基礎となるのは被害者が被害を受けた時点での収入ですが、被害者本人に充分な収入がなくても精神的ショックから遺族の収入が減少することが多い。その実態を加味して給付金が引き上げられました」
新制度の平均給付金(給付金総額と給付件数から算出)は1028万円で、同年度全体の平均額より1.8倍になったとされる。海外にも同様の遺族救済制度がある。
「アメリカは州ごとに給付金が異なり、金額は1万~5万ドル(144万~722万円)が一般的です。イギリスやドイツにも同様の制度があります」(轟木さん)
人の命は平等。それは理想であり、悲しい最期の後に命の値段がつけられる現実、それが世界と比べ大きな差があることを私たちはもっと考えるべきだろう。
■前編記事:《人が亡くなったときの「賠償金」に影響する死亡慰謝料と逸失利益 「主婦や高齢者の死亡慰謝料は低くなりやすい」「就労してない人の逸失利益は賃金センサスを元に算出」》から読む
※女性セブン2025年6月26日号