中間層の「とりあえず需要」を吸い上げる
各社でヒットしたのはデジタルガジェットでしたが、その充実ぶりに驚きますね。USBスピーカー、ワイヤレスキーボードなどもあります。ヒットした理由は、家電量販店よりも真っ先に「行ってみよう」と思わせたからです。つまり満費者の脳内検索1位になることで、代替需要を生み出していったのです。
さらに、私は「とりあえず需要」は見逃せないと思っています。たとえば、通勤時にラジオや動画の視聴などをしようとして、「ワイヤレスイヤホンがほしい」とふと思い立ったとき。でもそのときに、いきなり2万円台の商品を買うのは勇気がいります。そんなとき1000円ならば買ってみようかな、と思うでしょう。もちろん、2万円台の商品と同じ品質と思っている消費者はそんなにいません。あくまでエントリー商品として、うまいポジショニングをしていますね。中間層のニーズをうまく吸い上げています。
それが可能なのは、ある種の過剰さです。100均各社は毎月の新商品投入が500~800点ほどあります。この異常なまでの試行錯誤が成功を導いているのです。めまいがするほど次々と商品が開発されては、基本的に「作り切り」「売り切り」で流れていきます。ふたたび目にしない商品が多いのはそのためです。しかしデジタルガジェット類は珍しくリピート商品となり、100均の目玉となっているわけですね。出張先でスマホやタブレットの充電ケーブルを購入するとき、真っ先に100均が頭に浮かぶ人も多いでしょう。
さらに100均は健康志向の高まりからかサプリメントも売っていますし、ガーデニンググッズやキャンプ用品なども充実させています。取り扱っている品数の多さを見れば、もはや業界自体が、デフレ下で異常なまでに発展した一つの奇跡といっていいでしょう。ひょっとすると、100均限定で書籍を発行したら、書店に並べるよりヒットするかもしれません。
なお、私は「中間層のニーズ」という言葉を使いましたが、ここでいう中間層=ミドルとは年齢ではなく、最安価でも高級でもない中間商品を購買する層のことです。これまで銀座には多くのブランドが出店しましたが、大量閉店や撤退も相次いでいます。ひさびさに銀座に行くと、以前目にしたブランド店舗がなくなっています。
100均は、現代の日本経済において価値があるという意味の「百金」になっていますが、日本一の商業地域に根づくのはたやすくありません。ですが100均は、どんどん伸びました。今やその市場規模は約1兆円です。これは国民1人あたり、年間1万円を払うくらいの規模です。銀座のような好立地に進出できる業種がプチプラブランドなのは、実質賃金が伸びない日本の経済の状況を表していますね。現在は食糧高、さらに円安など、多重の原価高要因に襲われています(だからこそ、銀座のディスカウント・スーパーマーケット、オーケーが大人気ですね)。これからも、まだまだ100均需要は続きそうです。