FRBへの利下げ圧力を強めるトランプ大統領(AFP=時事)
米国株式市場が2025年6月末、史上最高値を更新した。S&P500、NASDAQも揃って堅調に推移し、投資家のリスク許容度も高まっている。しかし、長期的見ると無視できないリスクも指摘されている。それは何なのか。個人投資家・投資系YouTuberの森口亮さんによる、シリーズ「まるわかり市況分析」。森口さんが解説する。
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米国株式市場が2025年6月末、史上最高値を更新しました。S&P500、NASDAQはともに堅調に推移し、投資家心理はリスクオンムードに傾いています。しかし、この上昇には短期的な「安心感」とともに、長期的に無視できないリスクも潜んでいます。
今回は、史上最高値更新の背景にある要因と、投資家が立ち止まって考えるべき視点を解説します。
地政学リスクの後退:イラン・イスラエル問題の早期沈静化
今年春以降、金融市場を揺るがした中東情勢。特にイランとイスラエルの対立は、原油価格の急騰や株式市場の動揺を引き起こしました。
しかし、6月に入り双方が早期停戦の方向へと動いたことで、ひとまずリスクは沈静化。これを受けて、原油価格が安定し、インフレ加速への懸念も和らいだことが投資家心理を支えています。
紛争が長期化しなかったことは、特に欧米市場にとって大きな安心材料となりました。
利下げ期待:「トランプ圧力」がFRBを揺らすか
最大の株高要因は、金融政策への期待ではないでしょうか。2025年に入り、FRB(米連邦準備制度理事会)は利下げに慎重なスタンスを維持してきました。しかし、2026年11月に実施の中間選挙を見据えてかトランプ大統領が繰り返し「早期の利下げ」を要求しており、その影響もあって、FRB高官の中でも「利下げ」についての発言が散見されます。市場は年内の2回の利下げを織り込み始めています。
特に、金利感応度の高いハイテク株やグロース株が買われやすい地合いが続いており、NASDAQの上昇を牽引しています。
利下げと関税強化という不安定な構図
本来、利下げが株式市場にとって追い風であることは間違いありません。資金調達コストの低下は企業活動を活性化し、株価を押し上げるからです。
しかし、利下げとはそもそも「景気の減速を和らげるための処方箋」です。つまり、今の米国経済が減速局面に差しかかっている可能性を示しているとも言えます。
また、利下げによって経済が再過熱すれば、再びインフレ圧力が高まることも懸念材料です。インフレが強まれば、FRBは再び利上げを迫られるリスクも残されています。
さらに、もうひとつ見過ごせないのが関税政策の影響です。
トランプ政権は、中国をはじめとした各国と関税の交渉を進めているものの、以前よりも高い関税がかかることは間違いありません。これは表面的には国内産業の保護策ですが、実際には物価を押し上げ、消費者の購買力を低下させる結果になりかねません。
利下げと関税強化が同時に進めば、「インフレの火種をくすぶらせながら、金融緩和で株価を維持する」という不安定な構図になりかねず、中長期の投資判断には慎重さが求められます。