まだ3回しか受講していないのに…(イラスト/大野文彰)
英会話教室などでは授業料を前払いすることも多いが、もしも予定されていた授業を受ける前にその教室が倒産してしまった場合、支払ったお金は戻ってくるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
息子が英会話教室に通うことになり、入会金や50回分の授業料、教材一式の代金として約35万円を前払いしました。
ところが、3回しか受講していないのに英会話教室が倒産。担当の先生も給料が未払いで困っているそうで、どこに相談したらいいのかわかりません。残りの授業料を返してもらうにはどうしたらよいでしょうか。(千葉県・57才女性・パート)
【回答】
倒産した英会話教室は破産や民事再生の手続きをとることになると思います。
破産は、事業を廃業して資産を売却し、その代金を優先権がある税金、給料などの労働債権に充て、残りがあればそのほかの一般債権者に分配する手続きです。
あなたは授業料の前払い分や入会金のうちの未経過に相当する分、教材が教室以外では使用価値がなければその教材代など(以下「前払い授業料等」)に相当する額の損害賠償請求権を破産債権として届け出て、配当を受けることになります。しかし、倒産すれば資産は乏しく、配当を期待できないのが普通です。
民事再生は、破産状態になっていても債権者の同意を得て、事業再建を目指す手続きです。民事再生手続きが開始されると、すでに授業料を全額前払いしたあなたが持っている、息子に授業をするように求める権利は再生債権になります。
再生債権は、手続きの最後に成立するかもしれない再生計画がない限り、履行されることはありません。そうするとこのまま授業を受けられないことになるので、前払い授業料等を損害賠償債権として届け出て、再生計画による支払いを受けるしかありません。教室は、支払いをしないと労働基準法違反で刑事罰を受けることもある給料さえ支払っていないのですから、損害の回収は難しいでしょう。
今後、破産などの法的手続きの中で、倒産に至る経過が解明されます。もし、入会契約時にお金が枯渇しており、事業遂行の見込みがないにもかかわらず、授業料等の前払いを受けて契約していたことが明らかになったとすれば、詐欺に等しい不法行為です。
破産した教室が株式会社の経営による場合、詐欺まがいの入会契約の事情を知っていたか、知らなかったとしても重過失があった取締役は、個人として損害賠償責任を負います。そうした取締役に財産があれば回収は可能です。
また、前払い授業料等をクレジットカードで分割払いしていた場合は、倒産した教室に対する授業料等の支払い拒否をカード会社に対して主張し、請求を拒否する方法もあります。いずれも弁護士に相談されるとよいと思います。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2025年7月17日号