美団が圧倒的シェアを占めてきた中国のフードデリバリー市場に変化も(Getty Images)
中国株の第一人者・田代尚機氏によるプレミアム連載「チャイナ・レポート」。最近、株価が大きく動いている「中国のフードデリバリー業界」の現状について解説する。
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中国ネットビジネス大手一角の株価が下落している。本土を中心にオンラインでフードデリバリー、日用品の即時配送サービスや旅行仲介サービス事業などを展開する香港上場「美団」の7月15日の株価(香港市場)は年初来高値を記録した3月7日と比べて31%下落しており、ネット通販ビジネス大手のJDドットコム、アリババは同じ条件で順に25%、18%下落している。同じくハンセン指数は1%上昇しており、3社の株価は大きくアンダーパフォームしている。
JDドットコムは2015年から即時配送サービス、2024年からコーヒー、ミルクティーなどのチェーン店のデリバリーサービスを始めていたが、今年3月、本格的にフードデリバリーサービスに参入、破格の優待によるユーザーサービスの充実、好待遇による配達員の引き抜き、安い手数料による加盟店の獲得といった大手2社の弱点を突くやり方で市場シェアの奪取を試みている。
業界関係者たちの推計によれば、2024年のフードデリバリーサービスにおける市場シェア(1日当たりの注文数)は美団が7割、アリババ傘下の餓了麼が3割とされる。2社による寡占市場にJDドットコムが強引に割って入ろうとしていることから、美団、アリババでは、市場シェアや利益率の低下、コスト増による収益圧迫懸念が生じている。一方、JDドットコムにおいては、先行2社間による寡占が進んでしまった段階での新規参入は遅すぎるのではないか、黒字転換できないまま、多額の投資を長期間に渡り強いられることになりはしないかといった懸念がある。一連の競争が3社の株価下落の主な要因だと考えられている。
3社の顧客獲得競争が消費者の恩恵につながる
7月の夏休みシーズンに入り、ユーザー囲い込み競争が激化している。美団は7月12日(土曜日)10:30~12:30の時間限定で、アプリを通して先着1万名にラッキン・コーヒー、滬上阿姨、古茗などで使えるミルクティー、レモンティー、朝食セットなどの無料引換券(最大価格は20元-410円、1元=20.5円で計算)を提供している。使用期限は1日限りで一部を除き、デリバリーサービスで注文できる。
餓了麼では7月12日、アプリ上で18.8元(385円)以上買えば18.8元相当分が無料になる券を提供している。1元程度を余分に出せばマクドナルドを含む多くの飲食店で飲料などを購入できることになる。
JDドットコム傘下でフードデリバリー事業を営む京東外売では7月11日以降、毎晩(18:00~翌日02:00)10万セット限定で人気のザリガニ料理(豆板醤などで炒め、煮込んだ料理)を16.18元で販売するサービスなどを実施している。
春から続く激しい顧客獲得競争は3社にとって消耗戦の様相を呈してきたが、消費者、レストラン、あるいはサービスとして提供される飲料の販売店などにとっては大きな恩恵となっている側面もあるようだ。