映画の盗撮は犯罪だ(イメージ)
映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が大ヒットしているが、その陰で本編映像を盗撮した動画が、ネット上にアップロードされる騒動も起きている。これを重く見た公式は、7月25日と8月1日に、公式Xにて〈劇場での映画の盗撮行為は犯罪です。悪質な著作権侵害に対しては、刑事告訴を含む厳正な対処をしていく所存です〉と注意喚起した。8月21日には24歳の専門学校生が著作権法違反などの容疑で逮捕されている。
映画の著作権侵害については、近年さまざまな問題が浮上している。盗撮被害のほかにも、2021年には1本2時間ほどの映画を10分~15分に編集した“ファスト映画”を動画サイトにアップロードしたとして初の逮捕者が出ている。
映画ライターとして25年以上活動する和田隆氏の著書『映画ビジネス』より、映画界が取り組む “著作権侵害との戦い”について解説する。(同書より一部抜粋して再構成)【全3回中の第3回。第1回から読む】
* * *
全国の映画館で映画が始まる前に上映されているマナームービー(CM)“NO MORE映画泥棒”。映画の盗撮を行っている“カメラ男”が逮捕されるという印象的なパントマイムのCMを皆さんも見たことがあると思います。これは、「映画館に行こう!」実行委員会による「映画盗撮防止キャンペーン」啓発CMで、2007年8月30日の「映画の盗撮の防止に関する法律」の施行2カ月前の6月30日より上映が開始され、バージョンを更新して現在も継続して上映されています。
映画の“盗撮”行為 (音声録音含む) は著作権(複製権)の侵害となり、刑事罰の対象(著作権侵害罪)になります。「映画の盗撮の防止に関する法律」が成立した背景は、今から遡ること約40年前の1980年代に、映画館で上映される映画をビデオカメラで録画して作ったと思われる映画の海賊版が出回るようになったからです。正規版のメディア(フィルム、ビデオカテープ等)を複製した海賊版と比べると、映像や音声が不鮮明でしたが、新作映画が一般公開されるとすぐに流出することから興行への影響が無視できないものとなっていたのです。
そして2000年代に入ると、カメラやマイク、カメラ付き携帯電話などの小型・高性能化が進み、映画館での盗撮行為が見つけ難くなった上、録画・録音がより鮮明になります。さらに、DVDやインターネットといったデジタル技術を基盤としたデータの複製、送信手段が普及したことで、映像や音声を劣化させることなく、短時間に世界中に流通させることが可能となったことから、その影響が深刻化したのでした。
アメリカ映画業協会(MPAA)の海外管轄団体であるモーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)の試算によると、2005年当時、日本国内の映画館における盗撮によって流出した海賊版による日本国内の損害額は、邦画と洋画を合わせて約180億円であったとしています。同年の日本の年間興収は約1980億円だったので、海賊版の流通が興収を1割近く減少させる事態になっていたのです。