なぜ値上げしても最高益を実現できたのか(時事通信フォト)
ハイデイ日高が関東地方を中心に展開する、大衆中華料理チェーン店「熱烈中華食堂 日高屋」(以下、日高屋)の2025年2月期決算は、売上高556億円(前期比114.1%)、営業利益55億円(前期比118.9%)と、過去最高益を記録した。続く2026年2月期も会社予想で最高益更新を見込んでいる。日高屋といえば、2024年に中華そばの値上げを発表したことで大きな話題になった。客足は減少したにもかかわらず、なぜ最高益につながったのか。イトモス研究所所長・小倉健一氏が、日高屋の“逆説的な好業績”の秘密を解き明かす。
中華そば「390円」から「420円」への値上げの反応
深夜でも「適当でちょうどいい食事」を楽しめる(日高屋の中華そば)
2024年の暮れ、巷にあふれる値上げの報せの中に、ひときわ人々の心を揺さぶるものがあった。中華食堂「日高屋」が、看板メニューである「中華そば」の価格を、創業以来守り続けてきた390円から420円へと改定すると発表したのである。あらゆるものが高騰するこの時代、たかだか30円の値上げが、これほどまでに一つの事件として語られることに、現代社会の歪みが凝縮されているように思えた。
しかし、この30円の値上げを巡って日高屋に向けられたのは、巷間予想されたような単純な「怒り」や「失望」ではなかった。むしろ、それは企業と消費者、そして価格と価値をめぐる私たちの関係性を、静かに問い直すドラマの始まりであった。
値上げが発表されるやいなや、日高屋のお客様相談室には意外な声が寄せられたという(「MonoMax Web」8月9日配信記事より)。「値上げありがとうございます」「ぎりぎりまで頑張ってくれたことに感謝します」。企業の値上げに対し、消費者が感謝の言葉を述べるという、この倒錯したかのような現象は何を意味するのか。
それは、多くの人々が日高屋の中華そばの「390円」という価格を、単なる数字としてではなく、企業の良心や社会への貢献の象徴として捉えていたことの証左であろう。自社工場での一貫製造、首都圏への集中出店による物流コストの抑制。そうした涙ぐましいまでの企業努力によって維持されてきた価格であったことを、利用者は肌感覚で理解していたのだ。日高屋の戦いは、デフレという長いトンネルの中で、庶民のささやかな日常を守るための、静かな抵抗でもあった。