グローバル化を目指す日本の音楽産業に必要なこと
とはいえ、日本の音楽産業が多層的になっているのは、悪い面ばかりではありません。音楽も含んだ洗練された――複雑ではあるけれど、多くの関係者が楽曲制作とその流通に投資してそれぞれの得意分野で関わり、ビジネスの最大化を図る――著作権の仕組みを、お手本となる欧米からアジアの国としていち早く取り入れたというのが歴史的な経緯です。
一方韓国は市場がそこまで大きくなかったため、その仕組みを取り込む段階を経ずに、限られた業界関係者がビジネスを進めやすい環境が自然と構築されていったという違いがあります。
もっと統合が進んだ例を挙げると、近年まさに音楽ビジネスが勃興したばかりのアフリカでは、音楽ストリーミングサービスがアーティストマネジメント会社やレコード会社を運営していたりもします。
さらに、K-POPに携わる企業は、グローバル企業のように機動性を活かして戦略的に動いてきました。たとえば2021年にはBTSが所属する韓国HYBEがジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデが所属するイサカ・ホールディングスを買収し、彼らをマネジメントしてきたスクーター・ブラウン氏をHYBEUSのCEOに据えてアメリカ市場に本格的に進出しています。
日本もグローバル化を目指すなら、アーティストやプロデューサー個人の努力や創意工夫、つまりヒットを生むという面に力を入れるだけでなく、企業やビジネスの構造、そこから生み出される戦略そのものをグローバル化していく必要があるのです。
(第2回に続く)
【プロフィール】
鈴木貴歩(すずき・たかゆき)/ParadeAll株式会社 代表取締役。ゲーム会社・放送局でコンテンツ企画・事業開発を担当した後に、2009年にユニバーサルミュージック合同会社に入社。デジタル本部本部長他を歴任し、音楽配信売上の拡大、全社のデジタル戦略の推進、国内外のプラットフォーム企業との事業開発をリードし、2016年に起業。現在はParadeAll株式会社の代表取締役エンターテック・コンサルタントとして、日米欧の企業へのエンターテック領域の事業戦略、事業開発、海外展開のコンサルティング事業に加え、日欧のスタートアップのアドバイザーも務める。またJASRAC理事、米SXSW PitchやベルギーWallifornia MusicTech等のアドバイザリーボードも務めており、日本とグローバル、業界とイノベーションの橋渡し役を担っている。
※鈴木貴歩著『音楽ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋して再構成。