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音楽ビジネス「グローバル化」の最前線

【海外進出の壁を乗り越えるJ-POP】YOASOBIの世界的快進撃を生んだ「あえてインディーズとして配信スタート」した戦略 リスナーの半分が海外という調査結果も

スピード重視でインディーズとして配信をスタート

 現在、YOASOBIはソニー・ミュージックエンターテイメント(SME)とのレーベル契約を結んでいますが、デビュー当時はThe Orchard(オーチャード)というグローバル音楽ディストリビューターと契約し配信を始めました。

 オーチャードは1997年にアメリカで設立されたインディーズアーティストの楽曲をストリーミングサービスに提供している会社で、2015年にSMEのグループ会社となっています。かつては韓国BTSの楽曲配信をおこなっていたこともありました。オーチャードのような音楽ディストリビューターは、原盤権を持つSMEをはじめとしたレーベルやアーティストから楽曲を預かり、配信などの流通を担う事業者です。

 従来、才能あるインディーズアーティストを発掘・育成し、メジャーデビューへと導き、その原盤権でビジネスをしていく、というのがレーベルの強みでした。YOASOBIは元々VOCALOIDプロデューサーとしてインディーズで活動していたAyase氏と、ボーカルのikura氏により結成されたユニットで、SMEによる小説投稿サイト「monogatary.com」の小説を原作とした楽曲をプロデュースするユニットとして『夜に駆ける』でデビューしており、路上ライブやライブハウス発とは異なる経緯を辿っています。

『夜に駆ける』のMV100万回再生の達成を機に、ストリーミングサービスでの配信開始を計画していたSMEの担当プロデューサーは、朝日新聞の取材で自社=メジャーからの配信では社内決裁に時間が掛かり、それではファンの熱量が冷めてしまい機を逃してしまうと考え、オーチャード側からの提案を受け入れインディーズとして配信をスタートさせた経緯を明かしています。オーチャード=世界展開の知見を持つディストリビューターと組んだことで、その後のYOASOBIはスピードだけでなく、言葉の壁もいち早く越えていくことになります。

 オーチャードは国ごとの再生数をアーティストもスマホで確認できるシステムを備えており「スパイク」と呼ばれる爆発的な再生数の伸びも即座に掴むことができます。その反応も見て2021年から『夜に駆ける』をはじめとした英語版MVを次々に公開し、世界に対してYOASOBIがグローバルなアーティストであるという認知を拡げることになりました。現在、YOASOBIのリスナーは半分が海外であるという調査結果もあります。

より多様に広がる「J-POP」の世界的な認知

 日本のアーティストが海外で活躍し始めている一方で、最近では、私たち音楽業界のなかではJ-POPの「J」、つまり日本ということをそこまで意識する必要はないという感覚が拡がっているようにも思えます。欧米のメインストリームと、そうではないアジア圏の私たちの音楽という捉え方ですね。

 少し前まで、世界から見たときのJ-POPというと、たとえば「原宿」とか「KAWAII」といった限定的な括りでした。しかし、コロナ禍によるストリーミングサービスの普及とそこへの楽曲の「解禁」、そして日本への観光やアニメなどの影響で、より多くの世界中の人々がJ-POPを知るようになりました。限定的だったJ-POPの認知が、より多様に広がり続けていると感じます。

第1回から読む

【プロフィール】
鈴木貴歩(すずき・たかゆき)/ParadeAll株式会社 代表取締役。ゲーム会社・放送局でコンテンツ企画・事業開発を担当した後に、2009年にユニバーサルミュージック合同会社に入社。デジタル本部本部長他を歴任し、音楽配信売上の拡大、全社のデジタル戦略の推進、国内外のプラットフォーム企業との事業開発をリードし、2016年に起業。現在はParadeAll株式会社の代表取締役エンターテック・コンサルタントとして、日米欧の企業へのエンターテック領域の事業戦略、事業開発、海外展開のコンサルティング事業に加え、日欧のスタートアップのアドバイザーも務める。またJASRAC理事、米SXSW PitchやベルギーWallifornia MusicTech等のアドバイザリーボードも務めており、日本とグローバル、業界とイノベーションの橋渡し役を担っている。

※鈴木貴歩著『音楽ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋して再構成。

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