そのときは納得し、署名・捺印をしたけれど…(イラスト/大野文彰)
身内が亡くなった時、悲しみに打ちひしがれながら取り組まなくていけないのが遺産の分割。遺言を尊重して遺産分割協議書に署名・捺印し、遺留分を放棄したけれど、やっぱり納得できない──そういったケースにおいて、後から遺留分を請求することはできるのか。実際の法律相談に回答する形で弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
昨年、母が亡くなりました。母の子供は私を含め3人ですが、母が生前、「遺産は、同居して私の面倒を見てくれたA子にあげる」と言っていたため、妹のA子がすべて相続しました。
そのときは私も納得し、遺産分割協議書に署名・捺印をしましたが、いまとなっては納得できません。いまからでも遺留分を請求することはできるのか教えてください。鹿児島県・林啓子(56才・主婦)
【回答】
あなたは自分の意思でA子さんが1人で相続する遺産分割協議書に署名・捺印したのですが、もし分割協議において何らかの重大な誤解があれば、分割に応じる意思表示に錯誤があったとして遺産分割協議を取り消せる可能性があります。
例えば、一定の価値があると説明された遺産を取得する遺産分割協議をしたところ、説明が間違いでほとんど無価値であった場合や、負担する相続税額を話し合ったうえで分割したら、税額算定に大きな間違いがあって分割協議の前提が崩れた場合、などです。
あなたは、お母さんの生前の意思を尊重してA子さんが全部取得する分割に応じたのですから、仮にお母さんの意思が違っていたような場合であれば錯誤も検討できます。しかし、直接意思を確認していたとすれば、その点で何の錯誤もなく、遺産分割協議を取り消すことはできません。
