ビジネス・ブレークスルー大学大学院の学長も務める、経営コンサルタントの大前研一氏
何もない土地に“絵”を描けるか
日本経済新聞電子版(9月15日配信)の記事によると、カリフォルニア・フォーエバーが情報開示せずに土地を買い占めていたこともあって、地元住民の間では反対の声が強いという。たしかに、のんびりした田園地帯で暮らしている住民たちにとって寝耳に水の計画で、従来の小さなコミュニティに外から大量に人が移住してくるとなれば、困惑するのは当然だろう。
しかし、先に企業コリドー(回廊)ができて住宅が後回しになったために住居費が高騰したシリコンバレーの失敗を踏まえ、産業団地よりも先に住宅を計画的に整備していけば、地元住民の理解を得られるはずだ。そうして計画が実現したら、ソラノ郡に新都市を建設しようと考えたスラメック氏の「構想力」の勝利である。
構想力があれば、AI(人工知能)に代替されることはない。それを身につけるためには、「何もない土地に“新たな絵”を描く」トレーニングが最も効果的だ。
たとえば、私は30年近く前に東京が“マンハッタン化”すると予想した。晴海や豊洲などに足を運んで対岸の都心を眺め、品川から上野まで高層ビルが建ち並ぶ“未来予想図”を描いたのだが、それはいま現実のものとなりつつある。
あるいは、横浜をベニスのように水路を活用して“水の都”にするアイデアや、築地市場跡地を職住一体の24時間タウンにするという再開発計画も提案した。
さらに、千葉県の九十九里浜をオーストラリアのゴールドコースト化するという構想も示した。ゴールドコーストは57㎞の海岸線に高層コンドミニアムが林立し、人口75万人の大都市になって繁栄している。九十九里浜の海岸線はゴールドコーストよりも長い66kmだから、ゴールドコーストのようにできないわけがないと考えたのである。
これらの構想は、私が創業した教育事業を展開するAoba-BBTの「構想力・イノベーション講座」で、「RTOCS[アールトックス/*]」の例として提案したものだが、ソラノ郡の新都市計画はスラメック氏が「もし私がシリコンバレーの住宅問題を解決するとしたら?」と仮定して構想した結果だろう。AIが万能となる時代には、そういう構想力を持つ人間だけが生き残るのだ。
[*RTOCS(アールトックス)/Real Time Online Case Study=リアルタイム・オンライン・ケーススタディ。政治・経済・経営などの様々な課題について「もし私が○○だったら?」と仮定し、国・自治体のトップや経営者といった組織のリーダーとしての立場から現状を踏まえて将来像を予測し、今後の具体的な打ち手を考える思考法]
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『RTOCS他人の立場に立つ発想術』(小学館)など著書多数。
※週刊ポスト2025年12月12日号
