従業員のモチベーションを保つには(イラスト/井川泰年)
丸亀製麺の「年収最大2000万円」が話題だ。いまの店長の年収を4倍近くに引き上げるという、この施策について経営コンサルタントの大前研一氏は「年収2000万円を達成した従業員のモチベーション維持」が課題だと指摘。どうすれば従業員の働く意欲を維持させられるだろうか。大前氏が提言する。
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「大相撲ロンドン公演」が10月15日から19日まで開催された。その下調べで日本相撲協会が視察したホテルの食事は(当然ながら)主食がパン、朝食会場で出てくる料理はウインナーソーセージやスクランブルエッグなどの洋食ばかりだった。このため、それに辟易した力士たちは近くにあった讃岐うどん店「丸亀製麺」に行ってストレスを解消し、空腹を満たしていたという。
国内のみならず海外展開も進めている丸亀製麺は今「年収最大2000万円」が話題になっている。現在の店長の年収は最大520万円だが、それを4倍近くに引き上げるというのだ。
報道によると、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングス(HD)は、従来の店長制度を撤廃して新たに「ハピカンオフィサー制度」を導入する。これは、従来の店長業務の一部をアルバイトやパートなどに移管し、「店長」ではなく「ハピカンキャプテン」と呼ばれるリーダーが店を運営していくというもの。その評価基準には従業員の満足度を加え、生成AI(人工知能)を使って測定する。
今年11月の制度導入開始から3年間で300人のハピカンキャプテンをつくり、うち年収2000万円クラスを10人育成することを目指すという。ちなみにハピカンとは「ハピネス(従業員の幸福)」と「カンドウ(顧客の感動)」を組み合わせた同社の造語である。
いわば“スーパー店長”のハピカンキャプテンを、従業員の満足度やAI評価に基づいて養成するわけで、実に面白い試みだと思う。
これと似たような仕組みが、バニッシュ・スタンダードの店舗スタッフDXアプリケーションサービス「スタッフスタート」だ。アパレルや化粧品、家具、家電、雑貨、食品などの店舗スタッフによるオンライン接客を可能にするツールで、スタッフはeコマースの売り上げに応じて一定のマージンを受け取る。
このツールが画期的なのは、店舗の「立地」を関係なくしたことである。たとえば、アパレルや宝飾品などの高級ブランド店は立地がすべてだ。だから、それらの店は銀座の松屋通りやマロニエ通りなど一等地の路面に軒を連ねている。
しかし、スタッフスタートを利用すれば、立地が悪い店や地方都市の店のスタッフでも売り上げを伸ばすことができる。店にお客がいない空き時間を利用してオンラインで商品を紹介したり、接客したりできるからだ。それによって月100万円以上稼ぐアパレル店員も生まれたそうである。
給料を上げて従業員のモチベーションを高める丸亀製麺やスタッフスタートのようなアプローチは、いっこうに実質賃金が上がらない現在、優秀な人材を確保するために、これからますます様々な業界・業種の企業で増えるだろう。つまり、今後は日本企業の“給料の天井”が外れていく可能性があるということだ。
丸亀製麺は組織全体の働く意欲を高めるため、AIを使って約3万人の全従業員と面談する取り組みも始めている。AIからの質問は「あなたの一番好きな商品は?」「何のために仕事をしている?」「プライベートの趣味は?」など多岐にわたり、この面談を課題解決につなげているという。
こうした丸亀製麺の試みは評価できるが、重要なのは“次の一手”だ。なぜなら、年収2000万円になったハピカンキャプテンも4~5年経つとマンネリ化して目標を見失い、「昨日と同じでいいや」となってしまいかねないからである。
では、どうすれば従業員のモチベーションを永続させられるのか? 年収の上限を2000万円ではなく青天井にして「天井を決めるのは自分」というシステムにすればよいのだ。
