不動産選びの常識が大きく変わろうとしている。東京都心部では不動産価格の上昇が続いているが、必ずしも都内全域で右肩上がりが続くとは限らない──。そう指摘するのは不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏(オラガ総研代表)だ。
“不動産バブル”とも称されるような現状のなかで、23区内の新築物件は一般的にはとても手が出ないような水準になっているが、そこには海外からの投資マネーの流入といった一過性の要素も大きい。
コロナ禍を経て日本人の働き方が変わってきたなかで、今後は住まい選びの基準も大きく変わり、それに伴って多くの人に選ばれる街とそうではない街が二分化する流れが加速すると牧野氏は見ている。そうした問題意識から東京五輪前の2019年には著書『街間格差』(中公新書)をまとめた。東京23区の同じ区内でも、「輝く街/くすむ街」が分かれていくというのが同書で示された牧野氏の見解だ。
「カギとなるのは『人の出入り』の多さです。そのエリアの転出・転入が多いことが大切になる。人の出入りが激しいと、借りたり貸したり、売ったり買ったりと不動産が動く。そうして動きが活発であるほどに、地価も上昇します。
活発に人の出入りがある街として多くの人に選ばれる条件としては、これまでは通勤のための利便性という要素が大きかった。今後も利便性は重要な要素ですが、休日に家族と過ごす時間のあり方も重視されるようになったため、街の持つの文化や歴史、緑のある公園などの環境、行政が子育て政策に力を入れているか、といったポイントも大きくなっています」
今回は、東京23区のなかでも下町風情を残すエリアとして知られる足立区について、牧野氏が区内の「輝く街/くすむ街」を実名で挙げながら先行きを解説していく。