ノーベル平和賞を受賞したらどうなる?(イラスト/井川泰年)
ロシアとウクライナの戦争終結に向け調整を進めているトランプ大統領は「ノーベル平和賞」を熱望していると伝えられており、各国政府の間でも推薦する動きもあるという。経営コンサルタントの大前研一氏が、トランプ大統領の行動と心理を読み解く。
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トランプ大統領は8月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領や欧州主要国の首脳らとホワイトハウスで会談し、ロシアとウクライナの戦争終結について協議した。会談後、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領に電話し、戦争当事国の首脳同士の2者会談や自身を交えた3者会談の調整を開始したという。
また、トランプ大統領は、ロシアの再侵攻を防ぐための「安全の保証」についてウクライナに「非常に強力な保護と安全の保証を与える」と明言し、欧州がウクライナに派兵することになれば、側面的に航空支援する可能性も示唆した。
ただし、この会談に先立つプーチン大統領との首脳会談では、停戦に向けた具体的な進展はなかった。トランプ大統領は大統領選挙の時は「就任初日に(ロシアとウクライナの)戦争を止める」と豪語し、就任前の記者会見で「6か月」に修正したが、それも実現できなかった。狡猾でしたたかな元KGBスパイのプーチン大統領のほうが、何枚も上手なのである。
もともとトランプ大統領はプーチン大統領(あるいはその盟友)に過去3度も経済的な窮地を救われているとも言われ、2人は電話で長時間会話する親密な関係だ。今回の首脳会談前にトランプ大統領は、ロシアが停戦に応じなければロシアからエネルギーを買っている中国やインドに2次関税を課すと脅しをかけたが、それも単なる演技(ポーズ)であり、最初から“出来レース”だったのだろう。
首脳会談に同席したアメリカのウィトコフ特使は、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟しなくても、集団的自衛権の行使を定めたNATO条約第5条と似たような安全の保証を米欧が関与して提供する用意があることを明らかにし、ロシア側もこれに同意したとしている。
しかし、カードは交渉の主導権を握ったプーチン大統領の手中にある。トランプ大統領がプーチン大統領とゼレンスキー大統領が合意できる“落とし所”を見つけるのは、なかなか難しいのではないかと思う。
それでも、トランプ大統領がロシアとウクライナの戦争終結の仲介役を諦めることはないだろう。実現すれば、念願のノーベル平和賞がぐんと近づくからだ。