なぜ日本のスタートアップ企業が“少なくて小粒”なのか(イラスト/井川泰年)
アメリカのハイテク関連銘柄を中心に構成される株価指数ナスダックは史上最高値を更新。アメリカの巨大IT企業が世界で存在感を示している。日本でも政府が新興IT企業の支援策を打ち出してはいるものの、経営コンサルタントの大前研一氏は「これでは有望なスタートアップが誕生するとは到底思えない」と指摘する。なぜ日本ではスタートアップ企業が“少なくて小粒”なのか、大前氏が解説する。
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アメリカの半導体大手エヌビディアの時価総額が7月9日に4兆ドル(約600兆円)を超えた。日本の東京証券取引所に上場している企業3953社の合計時価総額は1012兆6000億円(6月30日時点)だから、エヌビディアは、たった1社でその半分以上の価値になっている計算だ。
アメリカ経済は「マグニフィセント・セブン」──GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)にエヌビディアとテスラを加えた7社──が牽引しており、その時価総額は、東証上場企業の合計時価総額の約2.5倍に達している。
トランプ大統領は、アメリカ製造業の復活・国内回帰を唱え、「貿易不均衡」を理由に諸外国に高関税をかけまくっているが、世界ではアメリカの巨大IT企業が荒稼ぎしているのだ。
仮に、トランプ大統領の思惑どおりに製造業がアメリカ国内に戻ってきたとしても、労働力が豊富で賃金も安い中国などに太刀打ちできないことは明らかだ。今後も先進国で稼ぎ頭になるのは新興IT企業=スタートアップしかないだろう。
日本政府も、経済成長を目指したスタートアップ支援策を打ち出してはいる。たとえば、岸田文雄内閣は2022年に「スタートアップ創出元年」を宣言して10兆円の大学ファンドを作った。石破茂内閣も今年、地方の高等専門学校発の起業を支援する方針を示した。
しかし、その司令塔になる「スタートアップ担当相」は現在、赤澤亮正・経済再生担当相が兼任している。トランプ政権との関税交渉で大々的に譲歩した人物だが、スタートアップは8つも兼任する担当分野の1つにすぎない。これでは有望なスタートアップが誕生するとは到底思えない。