トランプ大統領が見据えるのはノーベル平和賞か(イラスト/井川泰年)
イスラエルとイランの紛争に“参戦”し、停戦合意を実現したアメリカ・トランプ大統領の狙いはどこにあったのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、これまでの中東情勢の経緯を踏まえて考察する。
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トランプ大統領が言うところの「12日間戦争」──イスラエルとイランの紛争にアメリカが米軍機による空爆という形で“参戦”した一連の軍事衝突は、今後の中東情勢を根本的に変化させる契機になるだろう。
アメリカのメディアは、核施設空爆の成果について「重要な部分を破壊することはできず、核開発計画を数か月遅らせただけ」と報じたが、私の見方は違う。もはやイランが核開発を続けることはできないと思う。
なぜなら、まだ核施設が残存していたとしても、再びアメリカにステルス爆撃機「B2」と地中貫通爆弾「バンカーバスター」で攻撃されたら、今度こそ完全に壊滅してしまうからだ。また、すでにイスラエルはイランの主要な核科学者を何人も暗殺しているので、イランの核開発能力は大きく後退したと考えられる。
今回の12日間戦争で、最初の10日間はイスラエルが交戦し、空爆で主要な軍事施設を徹底的に破壊した。同時にイラン国内で諜報機関「モサド」が暗躍し、核科学者だけでなくイラン軍の参謀総長や革命防衛隊の司令官らも多数殺害した。
そして最後に、地下80~90mのウラン濃縮施設を破壊するため、アメリカにバンカーバスターによる攻撃を要請した。つまり、イスラエルが露払い役を務めてトランプ大統領の“出番”をお膳立てしたのである。
結果、トランプ大統領は12日間戦争のラスト2日間だけ表舞台に登場して停戦を実現したわけだが、これは彼がホストを務めていたテレビ番組『アプレンティス』と同じ演出である。
『アプレンティス』はトランプ氏が経営する会社で参加者が「見習い(=Apprentice)」として働き、様々な課題に取り組んで本採用を目指すという趣向の番組。毎週、エンディングにトランプ氏が出てきて脱落者を1人決め、「You’re fired!(お前はクビだ)」と、お得意の決め台詞で締めくくっていた。12日間戦争でも最後にトランプ大統領が登場し、イランの最高指導者ハメネイ師に「You’re fired!」と宣告して止めを刺したのである。まさに“トランプ劇場”による幕引きだった。
これまでにイスラエルは、敵対するレバノンのイスラム組織「ヒズボラ」とイエメンのイスラム組織「フーシ派」に大打撃を与え、パレスチナ自治区・ガザ地区のイスラム組織「ハマス」も打ちのめした。イランの盟友シリアに対しても2024年12月、国境の緩衝地帯に侵攻して制圧し、イスラエル軍を駐留させた。
つまり、イランの“前衛部隊”を担ってきた勢力が次々に崩壊しているわけで、もはやイランは“無条件降伏”するしかないと思う。