日銀の利上げは日本の景気にどう影響するか(イラスト/井川泰年)
石破政権はトランプ政権の関税措置を受けて、経済支援目的の「緊急対応パッケージ」を打ち出した。ガソリン価格の引き下げ、電気・ガス料金の支援など、国内消費の強化としているが、こうした施策について「選挙対策のバラ撒きでしかない」と指摘するのは経営コンサルタントの大前研一氏。では、日本の景気をよくするには、どのような施策が求められるのか。大前氏が解説する。
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今年1~3月期のGDP(国内総生産)は、物価変動の影響を除いた実質で昨年10~12月期より0.2%減り、1年ぶりのマイナス成長となった。GDPの半分以上を占める個人消費が物価高の影響で0.04%増と振るわなかったことが要因である。このため6月13日告示・22日投開票の東京都議選と7月の参院選を前に、野党は「消費税減税」「現金給付」の大合唱だ。
一方、自民党の森山裕幹事長は消費税減税に否定的で、石破茂政権は国内経済支援「緊急対応パッケージ」として低所得世帯への3万円給付、住宅購入の後押し、観光需要喚起、ガソリン価格の引き下げ、電気・ガス料金の支援といった国内消費の強化策を打ち出している。だが、その財源については与野党ともにあやふやで、要は選挙対策のバラ撒きでしかない。
しかし、景気を良くしたいなら答えは簡単だ。本連載で何度も書いているように、日本銀行が金利を上げればよいのである。普通の国では金利を下げれば景気が良くなるとされているが、日本の場合は逆なのだ。
日本では、1世帯あたりの平均所得金額が30年間も上がっていない一方で、個人金融資産が膨らみ続けている。日銀が発表した2024年10~12月期の資金循環統計(速報)によると、2024年12月末時点の家計の金融資産残高は2230兆円で過去最高となり、その半分は預貯金である。
もし1000兆円以上の預貯金に対して(今の定期預金金利は0.3%程度だが)昔のように5%の金利が付けば、1年の利息は50兆円になる。2024年度の消費税収入は23.8兆円と見込まれているから、消費税減税よりはるかに景気押し上げ効果が大きいのだ。
金利の上昇は富裕層ほど有利に働くが、野村総合研究所の推計によると、日本では純金融資産保有額が5000万円以上の世帯が560万世帯近くあり、総世帯数の1割強を占めている(2023年)。仮に1億円の金融資産があれば、金利5%なら年に500万円、2%でも年200万円もの“プレゼント”が中央銀行から自動的にもらえるわけで、これが消費拡大にもたらす効果は極めて大きい。