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「唐揚げ店が静かに姿を消している」飲食店の倒産が過去最悪ペース 立ちはだかるのは「本音の口コミ」、消費者の信頼を勝ち得るために求められる施策とは

唐揚げ店の倒産件数推移(帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年11月報」より)

唐揚げ店の倒産件数推移(帝国データバンク「全国企業倒産集計2025年11月報」より)

事業継続のカギは「信頼のネットワーク」を構築できるか

 ひるがえって、苦境に喘ぐ日本の飲食業界を見渡してみたい。倒産していく多くの小規模店舗は、果たしてこの「信頼のネットワーク」を構築できていただろうか。原材料の高騰や人件費の上昇といったコストの問題は、確かに経営を圧迫する要因だ。しかし、それ以上に深刻なのは、顧客との間に「信頼できる情報の架け橋」を築けなかったことにあるのではないか。どれほどこだわりの食材を使い、腕によりをかけて調理しても、その価値が信頼できる文脈で語られ、共有されなければ、デジタル社会においては存在しないも同然となってしまう。

 帝国データバンクの報告によると、生き残った唐揚げ専門店は、SNSを通じてメニューのこだわりを発信し、固定客やリピーターを繋ぎ止めているというが、まさにこの理論を裏付けている。彼らは単に商品を売っているのではなく、顧客との対話を通じて信頼を醸成し、それを次の顧客を呼ぶ呼び水としているのだ。

 年間900件超という倒産の数字は、単なる統計データではなく、変化する情報環境に適応できなかった数多くの悲劇の集積である。しかし同時に、これからを生きる事業者にとっては、明確な道しるべともなり得る。美味いものを作れば売れる時代は終わりを告げた。これからの飲食店経営に求められるのは、デジタルの海を漂う無数の言葉の中から、自店に対する「信頼」を拾い上げ、信頼を波及させていく力だ。

 口コミマーケティングの攻略とは、単にネット上で話題になることではない。情報が「役に立つ」「品質が高い」と認識されることこそが、購買意欲を高める重要な指標となるからだ。ゆえに、単なる「いいね!」や高評価、点数だけで終わらせず、具体的な味の描写や利用シーンといった記述を顧客から引き出す誘導こそが不可欠となる。価値ある情報の蓄積によって「情報は信じられる」という確信を植え付け、顧客を最強の宣伝部隊へと変えていくプロセスに他ならない。論文が示す通り、信頼性が購買意欲を高めるという事実は、もはや疑いようのない法則である。信頼性が購買意欲を高めるという法則を味方につけた者だけが、未曾有の淘汰の時代を生き抜くことができるのだろう。

【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。

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