中規模の「宿題が難しい」難関校対策に転塾
Aさんが息子の転塾先に選んだのは校舎数10強程度の中規模の難関対策塾だった。大手トップ塾から独立した講師達が設立した塾だ。
「テキストの内容が大手トップ塾より難しいんですよ。大手トップ塾よりも上の塾で、息子にふさわしいと思いました」
同じマンションの住民や同僚で、御三家や同等の難関校に子供を合格させた人たちの多くは大手トップ塾に通わせていた。
「あそこは詰め込み教育をするだけの塾ですよ。それじゃあ、これからの社会では勝ち抜けない」
大手トップ塾は算数で解法の詰め込みをさせないところに特徴があるが、少なくともAさんは「詰め込み教育」だと捉えているようだ。
Aさんの息子が通うことになった中堅の難関校対策塾は、大手トップ塾よりもテキストの難易度が高い。そして、転塾後、新しい塾でも苦戦することになる。とにかく宿題が難しい。特に国語は長文読解と記述をさせる内容で、ついていけない。
そこでAさんは個別指導塾を利用する。
「マンツーマン指導の大手個別指導塾を選びました。講師のランクによって授業料が違います。高いランクの講師をつけました。ただ、その先生がはずれでして」
はずれというのはAさんの主観的な感想だ。ただ、どこの個別指導も優秀な先生は奪い合いなので、5年生の途中から利用するとなると、なかなかいい先生には当たらないことも多いだろう。
Xの中学受験沼に居場所を見いだす
この頃からAさんはSNSの中学受験界隈にも夢中になり始める。会社では子供の受験の話はできないが、SNSにはたくさんの父親達がいる。
Xのプロフィールに「中学受験パパ」と明記したアカウントで活動をしている教育熱心な人たちとのやりとりは、有意義に感じたとAさんはいう。
慶應以外の受験校を選ぶ参考になる話もSNSでは仕入れられた。
「グローバル教育やPBL(問題解決型)学習など新しい教育を取り入れている学校も多いんですね。一方で、都立の上位高校なんかは詰め込み教育ばかりで駄目でしょう。慶應に入れない場合はそういう新しい教育に取り組んでいる学校に入れてもいいなと考えるようになりました」
一方で息子の成績は伸び悩む。そこでSNSで知った有名な国語の個別指導の塾に通わせるようになる。1コマ1万円で月に4万円。個別指導の費用と合わせると5年生の段階で塾の他に月に10万円近くがかかることになったが、成績は伸び悩むまま、6年生に突入していった。
続く第3回記事では、Aさん父子が挑んだ慶應受験の合否とともに、そこから導き出された“中学受験塾選びの教訓”について考察する。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。