好きなものを自分で取り出すスタイル
冷蔵庫には缶ビールや缶酎ハイがギッシリ
これは、最近になって知ったことなのだが、サッポロビールの工場は門司にあったという。それも、前身である帝国麦酒の工場として明治45年にできたというから驚きだ。この頃は、日本のビールの草創期。九州に初めてできたビールの醸造所が、門司にあったわけだ。
さらに門司港は、鉄道の起点だった。つまり、九州鉄道、後の国鉄、現在のJRの、九州における本拠地であった。当然、鉄道関係の社員たちも多かっただろうし、なにしろ、銀行、商社、船会社など当時の経済をけん引した業種が拠点を置いたから、地元ばかりでなく、はるか東京からも多くの人々が出張や転勤で訪れていたに違いない。
旅雑誌の取材で訪れたときの私は、国道沿いの一軒の渋い蕎麦屋に入った。ここの蕎麦がうまかった。つゆも、甘くないので不思議に思ったけれど、なるほど、東京からやってきた人たちには、東京風の味が受けたに違いないのだ。
そう考えると、「魚住酒店」にも、東京をはじめ、さまざまな土地から門司港に働きにきていた人も訪れたことだろう。
店内のカウンターの上のかごには、ポテトチップスとか、うまい棒みたいなスナックがある。酒は、客が背後の冷蔵庫を開けて、好きなものを取り出すシステムだ。まずはビールで行くか。缶酎ハイをキュッとやるのもいい。
瓶ビールの冷蔵庫にはキンキンに冷えたジョッキやグラスも
冷蔵庫はふたつあるのだ。ひとつは今述べた、缶酎ハイや缶ビールの冷蔵庫。そして、もうひとつには、アサヒ、キリン、サッポロの瓶ビールがびっしり詰まっている。冷しているのはビールだけではない。ジョッキやグラスも冷やしてある。
これはすばらしい配慮だ。暑い記時期のみならず、瓶ビールというのは冷えたグラスで飲むのがうまい。あ、いや、これは生ビールも同じか。私の場合、国産ビールに限るならば、やはりビールはよく冷えていることが望ましいような気がする。それが、伝統、というと大袈裟だが、私の官能にこびついている。

