最初に飲む日本酒としては最適な青森の「田酒」
お酒はいつ飲んでもいいものだが、昼から飲むお酒にはまた格別の味わいがある――。ライター・作家の大竹聡氏が、昼飲みの魅力と醍醐味を綴る連載コラム「昼酒御免!」。連載第18回は、20年前から通う町蕎麦の絶品蕎麦前に日本酒がとまらなくなった。【連載第18回】
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風の吹くまま気の向くまま、飲みたいと思ったときが飲み頃よと、昼日中から飲んでしまう昼酒御免! 毎度毎度、昼から飲んで飽きることがない。むしろ、昼から飲む酒がうまいから困ってしまう。
そして今回の昼酒は、東京西郊、府中市へとお導きしたい。
私の出身地は東京三鷹。東京23区の外側で、かつて北多摩郡、南多摩郡、西多摩郡に分かれていたので三多摩郡と呼ばれた。その北多摩郡にあったのが生まれ故郷、現在の三鷹市だ。そして、今回訪ねる府中市は、三鷹市よりは少し西側で、三鷹市の西側と府中市の東側の一部が直接隣り合ってはいないものの、隣街といっていいくらいに近い。
府中は、7世紀にできた武蔵国の国府がおかれた場所で、いわば現在の東京から埼玉にかけてのエリアの中心地だった。府中市の南側を流れる多摩川を利用した物流が盛んだったことも、ここに国府がおかれた理由であるらしい。
このたび向かう店は、京王線の府中駅からひと駅先へ行った分倍河原駅に近い。そこから南下すると、京王線中河原駅を過ぎて鎌倉街道を進み、多摩川を渡って、旧南多摩郡へ入る。私が現在居住しているのはこのあたりで、中河原で深酒して歩いて帰る深夜、多摩丘陵の上の空に浮かぶ月を眺めながら橋を渡るのは、なかなかオツな散歩なのである。
分倍河原は、新田義貞が鎌倉幕府と激戦を繰り広げ、見事に大勝した戦の地でもある。駅前に新田義貞の像があるからそれとわかるが、何も知らずに訪れるなら、ここは東京郊外の、とても静かな街だ。
そこにある一軒の蕎麦屋が「よし木」である。小さな店である。4人掛けのテーブルが3つ、2人掛けと1人掛けがひとつずつで、合計15席。内装はモダンなつくりで、落ち着いた喫茶店のようでもあるのだが、ここは、蕎麦と、蕎麦前がうまいのだ。
