冷蔵庫には日本酒の一升瓶が
まずはビールを飲みながらつまみを悩む
ではさっそく入店しよう。ランチタイムは11時半から14時30分だが、ラストオーダーは14時。昼の繁忙期を外しつつ蕎麦前を楽しむには13時過ぎくらいには入店したいところ。これはまあ、あくまで個人的な考え方だが、飲んで食べるにはやはり1時間とちょっとの時間はほしいし、かといって、混みあう最中に迷惑をかけたくない。なにしろ、昼時のお客さんは、この店の蕎麦を楽しみに来るのだから。
だから、いったん席についたら、テンポよくことを運びたい。
まずは瓶ビール。薄手の小さなグラスに並々注いで、キューっとやる。ふた口でグラスは空になるから、2杯目を注ぐ。
昼に飲むビールは、なぜこれほどうまいのだろう。いつも思うことだが、いつも答えは出ない。夕方に飲んでも、夜に飲んでも、朝に飲んでもうまいのだが、昼日中、おひさまの高いときに飲むビールは、そのどれにも増して痛快な感じを伴うのかもしれない。そんなことを考えつつお通しに出た枝豆を口に入れ、テーブルの上の品書きを眺めた。
こんな品が並んでいる。
辛味大根じゃこおろし、ちくわ磯辺揚げ、鴨つくね串、だし巻き玉子、鴨ハツの塩焼き、塩うに、鴨焼き。
悩むなあ。蕎麦屋で昼酒をする以上、だし巻き玉子を欠くことはできないだろう。ここは、譲れないところだ。となると、あとひと品かふた品だ。それ以上いくと、蕎麦が入らなくなってしまう……。悩むなぁ。
日本酒の仕入は目利きの酒屋から
ふと見ると、筆者の席のすぐ脇にある冷蔵庫には、日本酒の一升瓶が冷やしてあるではないか。
品数は絞っているが、いい酒を置いている。そうだそうだ、と思い出すのは、この店に酒を納めている酒屋さんが多摩市の小山商店であることだ。日本全国の地酒を扱う店で、その目利きは確かなもの。東京屈指の酒屋さんである。筆者がなぜそんなことを知っているかというと、ひとつは、「よし木」との付き合いが古いということがある。そしてもうひとつには、長く通っているうちに、店に酒を納品にきた酒屋さんのバンが小山商店のバンであることを発見したことがある。小山さんには私もときに、自分の飲む酒、あるいは人に贈る酒を買いに出かけていて、厚い信頼を寄せ得ているのである。
私が「よし木」を知ったのは、先代のご主人が蕎麦を打ち、蕎麦前を出して、大いに酒好きを喜ばせていた頃のこと。ある雑誌の取材で訪ねた。蕎麦屋を訪ね歩く蕎麦歩き散歩グループに同行取材をしたときだった。それ以来だから、もう20年くらいになる。
今のご主人に代替わりしてからも、いい酒と、いい肴と、絶品の手打ちそばが味わえることを知っている。

