縁を切るきっかけにはった彼女の息子からの電話
私が店に行かなくなったのは、ある時、Aさんの息子(当時30代)が電話で、「あれ、中川さん、お金くれるって言ってましたが、まだですよね?」と言ってきたのがきっかけです。確かにAさんに「困ったら言ってくれ」とは言っていたものの、正式依頼はなかった。
恐らく彼女は息子に「今月も淳ちゃんが多分助けてくれるから大丈夫」と言っていたのでしょう。そしてオーナーから家賃の催促が来て、息子が私に電話をかけてきた。この時、Aさん本人からの電話であればカネを貸したかもしれませんが、なぜ息子がかけてくる? 私が理不尽に感じて彼女に電話をしたら「息子が勝手にごめんね。私が電話する前に早まってしてしまった……」との返事。
息子はまったく別の関係性。親を思う気持ちは分かるものの、彼は“付き合いの機微”というものを分かっていないと感じました。「そんな浅はかな息子に育てたアンタが悪い! もう店には行かん!」と電話口でキレて、Aさんと縁を切ったのです。
そういえば、その時、嫌なことを思い出しました。Aさんが私から借金をしているにもかかわらず、「FIFAワールドカップの某大会に息子と一緒に現地で観戦してくる」と言い出し、その約1ヶ月間、自宅の観葉植物に水をやるようお願いをされたのです。
「はぁ? オレにカネ返していないのに息子と2人で豪華サッカー観戦だとぉ? しかもオレに水をやれ、とはどういうことだ!」と、腑に落ちない思いをしたわけです。思えばその時から「いつかこの人とは縁を切るだろう」ということを薄々感じていたのでしょう。
というわけで、どうせ息子も私に返すつもりも余裕はないでしょうから、この140万円は一生戻ってこないと割り切っています。結局、私が複数の知人にカネを貸して踏み倒された経験から学んだのは、借金を依頼されたときは、どんなに仲が良い相手でも「とにかく断れ」ということ。それを知るための授業料にしては高すぎたかもしれませんが、貸した私がバカだったので、仕方がない。次に誰かから「カネを貸してくれ」と言われたら「お前とは縁を切る」と厳しく通告してその人と縁を切ろうと心に固く誓っています。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は稲熊均氏との共著『ウソは真実の6倍の速さで拡散する』(中日新聞社)。