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山中伸弥氏が語る半生のエッセンス

ノーベル賞受賞者・山中伸弥さんが振り返る“iPS細胞が初めて人間の心臓の細胞に変化した瞬間” iPS細胞を使った心不全、パーキンソン病などの治療はどこまで進んでいるのか

ノーベル生理学・医学賞受賞者で、『夢中が未来をつくる』(サンマーク出版)著者の山中伸弥氏(提供・京都大学iPS細胞研究所)

ノーベル生理学・医学賞受賞者で、『夢中が未来をつくる』(サンマーク出版)著者の山中伸弥氏(提供・京都大学iPS細胞研究所)

 いま、日本では2人に1人はがんにかかり、3人に1人ががんで亡くなっている。がんの克服は人類がずっとつきつけられてきた課題だ。ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥氏が作製に成功したiPS細胞[YM1]は、これまで治療が難しかった病気に希望をもたらしている。そしてさらに、iPS細胞を用いたがん治療への応用研究も進んでいる。iPS細胞がひらく新しい医療の未来はどのようなかたちなのか。山中伸弥氏の著書『夢中が未来をつくる』より紹介する。

iPS細胞がひらく「再生医療」の可能性

 iPS細胞についての論文を発表してから4年後、京都大学にiPS細胞研究所が設立されました。私は最初の所長として12年間、所長を務めることになりました。

 ここではiPS細胞に関する基礎から応用まで幅広い研究がおこなわれています。共通のビジョンは「iPS細胞を患者さんに届ける」です。

 iPS細胞の技術を使えば、どんな人からもあらゆる細胞になれる万能細胞の状態にもどすことができます。たとえば、心臓や肝臓などに病気を抱えた人から細胞をとってiPS細胞に変えると、健康だったときの細胞にもどるのです。

 iPS細胞の技術は「タイムマシン」のようなものだと言ってもいいかもしれません。この技術を使えば、健康だったときの状態を取りもどすことができるのです(ただし、遺伝的な病気をもつ人からiPS細胞をつくった場合、健康な細胞にもどらないことがあります)。

 このようなiPS細胞の性質を利用して、実際に病気の治療に役立てる取り組みが始まっています。

 一つは、病気やケガなどで失われた体の機能をiPS細胞によって取りもどしていくこと。これを「再生医療」といいます。

 たとえば、心臓に不具合が起きてうまく動かなくなる心不全という病気をもっている人には、iPS細胞からつくった「心筋シート」や「心筋球」(1000個ほどの心筋細胞を塊にしたもの)を心臓に移植します。それらは心臓の筋肉の細胞をiPS細胞から作製したものです。

 それまで重症の心不全の治療というと、心臓移植をおこなうほかにありませんでした。これはたいへん難しい手術です。さらにはドナー(心臓の提供者)の数が圧倒的に足りないという問題があります。

 それに対して、iPS細胞を使えば心筋シートや心筋球をたくさんつくることができますし、基本的には、それらを心臓に移植することで治療していくので、心臓移植手術ほどの難しさはありません。

 心筋シートや心筋球は、ヒトの体に移植する前から、シャーレのなかで心臓のように脈を打って動いています。私は初めてiPS細胞から心筋細胞ができたときのことを、いまでも昨日のことのように覚えています。

 私がアメリカのグラッドストーン研究所にいたときのこと、日本から連絡が入りました。日本で研究を続けている高橋くんからでした。

「山中先生、心筋細胞ができています!」

 私は、「すぐに映像を送ってくれ」と言いました。

 パソコンで受信した映像を確認すると、シャーレのなかで細胞の塊が、まさに心臓の鼓動と同じように、トックトックと絶え間なく動いているのです。

「これは、すごい!」と私は興奮しました。ほかの細胞は脳からの指令で動くのですが、心筋細胞はひとりでに動くのです。

 iPS細胞が初めて、人間の心臓の細胞に変化した瞬間でした。

 いま、医療のさまざまな分野で、iPS細胞による臨床試験が始められています。たとえば、目には網膜といって眼球の内側に薄い膜が張っていますが、年をとって目が弱ると、この網膜の細胞が傷んでしまって、見える中心部分が歪んだり、暗く見えたりする目の病気にかかることがあります。

 その治療としてiPS細胞から網膜の細胞をつくり直して、傷んだ網膜と入れ替えるという手術がおこなわれました。

 この手術を受けた人は、これまで悪くなる一方だった病気が進まなくなり、症状が安定したという結果が出ています。

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