事件の関与を明かした北田文明(右から2番目)
法的に逃げるためのルートをゴールから探る
地面師たちは罪の意識そのものが極めて希薄なのかもしれない。かつて取材した地面師は「詐欺師は人を騙す前に自分を騙す」と言った。彼らが自分を騙しているのであれば、罪を自覚することはない。
それでは、黒幕かもしれない北田はどうなのか。私は面会時や手紙のやり取りでも、何度か出所後に再び犯罪に手を染めるのか聞いた。
「詐欺はもういいです。かつてのような集中力も思考力もありませんし。それより世のために少しでも良いことをしたい」
それがどこまで本気なのかは計り知れない。だが地面師事件について聞くと、こんな意味深なことを言っていた。
「基本的に人が考えたシステムは人が破れる。したがって今後も同じような事件は起こるでしょう。私はクラブで女の子と笑いながら、頭の中で『物理的ではなく法的に逃げるためのルートをゴールから探る詐欺』を常に考えていましたから」
では、末端だったカトウはどう生きるのか?
「俺は30代早々に金に詰まり犯罪に手を染めた。受刑して出所して初めて“金に追われることのない生活”ができてホッとしてる。事件に関わる前はいつも金がなくて、いざ金を得たらいつ捕まるかでビクビクして。ようやく後ろめたいことのない人生が送れている」
そうは言っても、カトウには積水ハウスに支払うべき賠償金10億円の一部が重くのしかかる。それは死ぬまで背負う金の重さだ。「もう悪いことはしない」。カトウはそう心に決めて、現在は現場仕事に就いている。
カトウはもう地面師にはならないだろう。しかしカトウのように若くして金に詰まり「捕まらないから」と犯罪に手を染める若者は現在も後を絶たない。
カトウのように誰かに使われる“パシリ”と、それを使う土井や北田のような者がいなくならない限り、詐欺犯罪がなくなることはない。
▼▼▼前編記事▼▼▼
【はじめから読む→】《積水ハウス55億円詐欺事件》20億円引き出した「口座役」が語った「罪を逃れるためにやったこと」
【プロフィール】
河合桃子(かわい・ももこ)/1977年、東京都生まれ。ライター。週刊誌を中心に執筆。幅広く取材活動を行なっており、特に性風俗にまつわる事件などアングラな業界を長年取材している。積水ハウス55億円詐欺事件の実行犯を取材した『地面師連絡役カトウ』で、第32回小学館ノンフィクション大賞を受賞。同書は6月18日に発売。
※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号
