中国政府に突きつけられたIMFの「教育的指導」の中身
IMFが問題にしたのは、返済を待ち、融資を続ける政策の限界である。完成した住宅を売って借金を返せる会社なら、資金を貸すことが助けになる。事業が成り立たない会社まで支え続ければ、整理を遅らせ、住宅の引き渡しも妨げる危険がある。借金の期限を延ばすだけでは、その会社が返済できるようになったことにはならない。
必要なのは、どこまで返せるかを調べる作業だ。会社が持つ住宅や土地の価値を確かめ、足りない分を誰が負担するか決める。貸した銀行などにも損失が及ぶ。痛みを伴う判断を避けて支援を続ければ、返せない借金は残り、会社の立て直しも進まない。習指導部は、こうした後始末を十分に進められていない。
IMFの提案は具体的だ。再建できない会社の整理を進める一方、中央政府の資金を使い、売約済みの住宅を完成させる。完成より補償の方が安く済む場合は、購入者にお金を払って損失を埋める。工事を続ける費用と補償の費用を比べ、負担の小さい方法を選ぶのである。会社の存続にこだわるより、代金を払った人の被害を終わらせることを優先する提案だ。
家を売ったのなら引き渡す。引き渡せないなら購入者の損失を埋める。中国政府は、この筋道を国際機関から示されている。政策の基本を説き直す勧告は、いわば中国政府への「教育的指導」である。市場の安定を掲げる習氏に問われているのは、新しい掛け声ではなく、誰の家を完成させ、誰に補償するかという具体的な決断だ。
購入者が知りたいのは、自分がいつ入居できるのか、払ったお金が戻るのかである。開発会社への支援額が増えたと聞かされても、それだけでは生活の予定を立てられない。会社の返済期限が延びるたびに、買い手が待つ時間まで延びるようでは、住宅市場への信頼は戻らない。借金の先送りを、住民の救済の代わりにすることはできない。
住宅の値下がりとローンの返済は、すでに家を受け取った家庭の消費にも響く。ドイツのメルカトル中国研究所は、住宅資産の目減りや返済負担が中間層の支出を圧迫していると指摘した。家計の不安を減らす対策も手薄だと批判している。習氏が国内消費を増やそうとしても、住まいを巡る負担を抱えた家庭は、お金を使うことに慎重になる。
習近平氏は、借金を抑える規制で開発会社の資金難を招き、その後は支援へ転じた。それでも、返せない借金の後始末と、家を受け取れない購入者の救済を十分に進められていない。対策は繰り返すのに、住民の被害を解決する結果が伴わない。IMFから損失の処理と購入者保護を指導される姿は、習氏の政策運営が行き詰まったことを示している。失敗を招き、その後始末でも立ち往生しているのである。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。