大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

企業が不要な人員を解雇できるスウェーデン式ルール

 たとえばバイマの場合、エスクローで海外の商品が「現地価格+10%+送料」で手に入る。そういう時代に百貨店は、海外の何倍もの値段でバイマと同じ商品を売っているのだから、売れるはずがないだろう。平日に百貨店の店内を歩くと、客よりも店員の数のほうが多い。もはや百貨店は業態的に終わっているのだ。

 だから退職金を5000万円上乗せしてでも……となるわけで、そのために企業は内部留保を蓄えているという一面もある。政府・与党は来年度の税制改正で、賃上げをした企業は法人税を軽減し、賃上げをしなかった企業に対しては軽減措置の縮小や取り消しを検討していると報じられたが、そんな脅しをかけても、企業からすれば背に腹は代えられないので、ほとんど効果はないのである。

 この問題の解決策は、企業が不要な人員を解雇できる制度を整えることだ。スウェーデンでは、修正社会主義の下で企業が人を解雇できなくて社会が硬直化したため、解雇できるようにルールを変えた。ドイツもシュレーダー首相(当時)が「アジェンダ2010」で同様の改革を断行した。

 企業が簡単にクビを切れるようにするひどい制度だと批判する向きがあるかもしれないが、それは違う。その一方で、失業手当を手厚くしたり、解雇された人たちが21世紀に飯が食えるような新しい技術やスキルを身につけられる職業訓練システムをしっかり整えたりしたのである。

 要するに今の日本の問題は、人手不足なのに低賃金の一方で、業界によっては人余りなのに給料が高止まりして、トータルの生産性が下がっていることなのだ。ここにメスを入れ、再雇用のための職業訓練システムを充実しない限り、日本人の給料は未来永劫、上がらないだろう。

※週刊ポスト2017年12月15日号

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