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政府が検討する「水道事業」民営化の不安要素

 この法案は「公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入する」ことを謳っており、「施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する」としている。民間企業がいきなり施設を運営するわけではないが、いずれはそれを目指しており、電気事業や鉄道事業などと同様に政府が手を放そうとしているのは明らかだ。

「この夏は、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など日本各地が天災に見舞われ、水道を巡る事故が多発した。そうした中、いずれ値上げされることを含みにした改正案を通すと世間の反発を招く、と政府が判断し、今国会では成立が見送られましたが、次期以降、改正案は確実に蒸し返されることになるでしょう」(全国紙記者)

海外ではことごとく失敗に終わった

 実際、水道事業が民営化されると何が起こるのか。アクアスフィア・水教育研究所代表で水ジャーナリストの橋本淳司さんが言う。

「民間企業による運営によって情報が見えにくくなることが予想されます。公営ならば、何にどのようにお金が使われたかを公開しなければなりませんが、民間企業には情報開示の義務はないため、事業の内訳が不透明になります」

 不適切な料金値上げが起こる可能性もある。

「民間企業は当然ながら利益を上げなければなりませんから、自社の論理で値上げをするかもしれない。例えば、災害に備えるリスクマネジメント代といった名目で料金を上げるかもしれません。また、民間企業には倒産の可能性もありますが、その場合、水道事業を誰が運営していくのか。さらには、災害などの有事の際、事業体制がどうなるのか、といった問題も残ります」(橋本さん)

 海外に目を向けてみると、過去、フランスのパリ、ドイツのベルリン、アメリカのアトランタ等々で水道事業の民営化は行われた。しかし、民営化はことごとく失敗に終わった。民営化したものの公営に戻した事例は、2000~2015年で180事例に上る。

 その主な要因は「料金の大幅な値上がり」と「情報の不透明化」にある。例えば、パリでは、25年間の契約で民間企業が事業に携わったが、その間、水道料金は174%増となった。事業者は営業利益を7%と公表していたが、実際は15~20%の利益を出しており、過少報告が長年なされていた。不透明な経営が市民の不信を招き、事業継続は困難となった。

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