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年金の損益分岐点 95歳まで生きなければ元がとれない時代へ

現行制度なら「85才まで生きれば元が取れる」計算だが…

 ロシアのケースは極端だとしても、70歳支給開始となれば、日本でも「保険料の納め損」となる人は確実に増加する。「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏の協力を得て、試算した〈以下はいずれも現在の制度に基づく。平均的な厚生年金加入者(サラリーマン)をモデルとし、加入期間は21~60歳の40年間とした〉。

●現行の「65歳支給開始」の場合
 納付した保険料は約3660万円(勤め先企業の負担分を含む)。それに対して、年金受給額は年間約187万円(老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計)。19年半以上の受給、つまり「85歳まで生きれば元が取れる」計算だ。日本人男性の平均寿命が81歳であることを考えれば、すでに「払い損」の状態になっていると言える。

 支給開始年齢が5歳引き上げられると、状況はさらに厳しくなる。

●今後の「70歳支給開始」の場合
 単純に5年後ろ倒しになれば、損益分岐点も5歳高齢化するので、元が取れる年齢は「90歳」の大台に乗る。平均寿命をはるかに上回り、男性の場合はほとんどが「払い損」に、女性も約半数が損益分岐点をクリアできなくなる。

「政府が支給開始年齢を70歳に引き上げたい理由の一つが、損益分岐点を“支払う側に有利”に動かせるからであることが窺えます」(北村氏)

 受給者側がさらに不利益になる変更もある。北村氏が続ける。

「70歳支給開始とセットの65歳雇用延長です。これによって“年金保険料を65歳まで納める”流れが進み、5年分多く保険料を支払うことになるのは確実です。一方で、在職老齢年金制度(※注)によって“年金カット”が行なわれている。

【※注/60歳以上の年金受給者が働くと、収入に応じて年金がカットされる制度】

 このように納付額は増え、受取額は減る傾向が一段と強まっており、損益分岐点は90歳では済まず、プラス5歳程度になるのは避けられません」

 95歳まで生きなければ元が取れない――年金人生で“勝ち組”になるための道程は何とも長く、途方に暮れてしまう。それが「70歳支給開始」時代の現実だ。政府は盛んに「人生100年時代」というフレーズを掲げているが、本音は「年金の元を取りたければ100年生きなさい」ということなのだ。

※週刊ポスト2018年11月2日号

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