だが、こうした体験談からわかるように、その懸念は前提に大きな誤解がある。60代と70代以降で家計の支出額に大きな変化が起きることは、客観的なデータによって裏づけられている。
総務省の「家計調査」(2018年)によれば、〈60~64歳〉の月間消費支出は30万4601円だが、年代を追うごとにその額は減っていく。〈65~69歳〉では28万1053円、〈70~74歳〉では、25万8425円、さらに後期高齢者の年齢に達する〈75~80歳〉では23万9587円となる。60代前半と70代後半では毎月6万5000円以上も違い、支出は2割減となるのだ。
その内訳の一部は図にも示したが、お弁当なども含めた「外食費」は〈60~64歳〉で1万1209円に対し、〈75~80歳〉では7191円と、30%以上も減少する。「通信費」に至っては、〈60~64歳〉で1万4521円に対し、〈75~80歳〉で7834円とほぼ半分にまでに圧縮されるのだ。
早くもらってよかった!
このデータについてファイナンシャル・プランナーの大沼恵美子氏が解説する。
「70歳以降は活動範囲が狭くなるだけでなく、75歳を前後して認知機能の衰えを意識するようになります。75歳を過ぎると車を運転する機会や出歩く頻度は減り、家族や友人とともに旅行の回数も激減します」
確かに〈60~64歳〉で2万5654円の出費となっていた「自動車等関係費」は、〈75~79歳〉では1万6924円と3割以上減少。外出機会が減るのと歩調を合わせるように、知人と連絡を取ったり盆暮れの挨拶状を送る回数も減るから「通信費」も少なくなる。
60歳から年金を繰り上げ受給している部品販売会社OBの男性(68)のケースは、「早くもらう」ことの利点を浮き彫りにしている。