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監督のサインを見た少年は野球との決別を決意した 勝利至上主義が残した心の傷

 バントにも色々な種類があり、自分がランナーになることを目指す「セーフティーバント」ともあるが、一般的にバントは相手にアウトを1つ献上するものという認識だろう。なぜバントだったのか?

「プロ野球中継で解説者がよく“打球を打ち上げるな”と言いますが、それは、フライは“捕る”という動作しかないからです。バントなら、『転がったボールを野手が取る→ファーストに投げる→ファーストが捕ってベースを踏む』と、いくつもの動作があるので、ミスが出る可能性が飛躍的に上がります。少年野球で、相手の投手があまりに凄くて手も足も出ない場合、まずはバットに当てなくては話にならないので、ひたすらバントをするという作戦もあり得ます」

 勝利する確率を少しでも高くするために、バントをさせるという選択は理解できる。しかし、中学3年間の集大成となる場面でバットを振ることさえ許されなかったNさんの心の傷は小さくなかった。そのことで完全に糸が切れ、野球とは決別。バントを命じられた場面が思い浮かぶので、長らくテレビで野球を見ることさえなかったという。

 今ではNさんは、「あの場面で打たせてもらえなかったのは、自分がそれだけの選手だったということ。早く見切りがつけられて良かった」と言っているが、どこまで本音なのかは、本人のみぞ知るところ。勝利への執念といえば美しいが、勝利至上主義によって選手が野球への情熱を失うこともあるようだ。

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