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「生涯現役」の陰で家族が犠牲になる皮肉 父の看護で疲弊する50代女性の思い

働き続ける高齢者が増える一方で、そのしわ寄せが家族に…(イメージ)

働き続ける高齢者が増える一方で、そのしわ寄せが家族に…(イメージ)

 すべての企業に社員が70才まで働けるよう努力義務を課す「70才就業法」(改正高年齢者雇用安定法)が4月1日から施行され、これまで以上に高齢者が長く働ける環境が整備されるようになった。

 好むと好まざるとにかかわらず高齢者が社会の戦力として汗を流し続ける「老後レス社会」は当人たちのみならずその周囲の人生までも大きく変える可能性がある。

「本当は、母に仕事を辞めてほしいけれど、本人がやりたいというものを無理に辞めさせることはできないと思い、黙っています」

 そうため息をつくのは斎藤麻美さん(仮名・50才)だ。70代後半の母は、現役の医療事務スタッフとして週5日のパート勤務を続けている。

 最近、父ががんの手術をしたため、現在の麻美さんは定期的に病院に通う毎日だ。

「それほどステージが進行してなかったからよかったものの、病院までは車の送り迎えが必要です。母がもう30年以上も働いている病院は、いまどきめずらしい手書きのカルテや点数表を使っており、その作業に精通する母を重宝しています。そのせいで休みがなく、リモートワークで融通が利く私が一手に父の世話を引き受けることに。母はやりがいと責任感から仕事を辞める気はないようですが、このままでは私の負担が重すぎます。父と共倒れにならないかと不安です」(麻美さん)

 シニア専門の派遣会社「高齢社」代表取締役の緒形憲さん(71才)は多くのシニア人材を会社に派遣しながら自身もその第一線で働いてきたが、今年3月で退任を決意した。

 緒形さんは「いまになって妻が苦労して自分を支えてくれていたことに気がついた」と語る。

「22才の頃から50年近く働き続けてきましたが、その大半で妻が家庭を守ってきました。私が出社するにあたり、妻は朝起きてご飯を用意して送り出し、夜ご飯も私の都合に合わせて準備してくれていたわけで、最近になって妻から『自分は女中みたいだ』とハッキリ言われました。

 私としては妻に感謝するばかりで、気晴らしに旅行でも行ってほしいけど、いまはコロナ禍でそれも難しい。50年近く一生懸命頑張ってきたつもりですが、その間、家のことをなおざりにしていたことに気づき、後悔し、少しでも苦労に報いたいと思っています」(緒形さん)

「生涯現役」として輝く人のウラには、必ずそれを支える存在がいる。父の看護で疲弊する麻美さんや妻に負担をかけた緒形さんのほか、「仕事が命の父は、運転免許証を返納してからも『できないのは運転だけ、体も頭もはっきりしているからまだ働きたい』と引退する気はゼロ。仕方がないから私が職場に送り迎えしています。これではデイサービスと変わらないから完全リタイアしてほしい」(40代女性)との声も聞かれた。

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