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「弁護士会」を揺るがす新旧勢力の内部対立 過払い金返還案件が火種に

弁護士会にある新旧世代のすれ違いを指摘する丸山和也弁護士(時事通信フォト)

弁護士会にある新旧世代のすれ違いを指摘する丸山和也弁護士(時事通信フォト)

弁護士に引き継がざるを得ない

 酒井氏が率いるベリーベストはクレジットカードやサラ金(消費者金融)の過払い金返還事件に積極的に取り組む事務所として知られていた。2001年に行われた司法制度改革の規制緩和により、「140万円以下」の少額の過払い金請求事件は、弁護士に頼まなくても、司法書士が簡易裁判所で扱えるようになった。

 ただ、依頼者が司法書士に相談しても、過払い金の金額を調査すると140万円を超えることがある。そういう場合、司法書士では取り扱えないルールなので、弁護士がバトンタッチして相談に乗る。ベリーベストは、「司法書士法人新宿事務所」が受けた相談で、140万円を超える事件があった場合に、1件あたり約20万円を払って引き継ぎを受けていた。

 そこに落とし穴があった。その約20万円は、案件を紹介されたことへの対価(報酬)とみなされ、弁護士法に違反する行為(弁護士ではないものと提携してはいけない「非弁提携」)に当たるとして、東京弁護士会が、酒井氏などに「6か月の業務停止」という重い懲戒処分を科したのだ。

 それを不服とした酒井氏は2020年6月、処分取り消しを求めて、東京弁護士会の上部組織である日弁連に審査を請求した。それを受けて開かれたのが、冒頭の8月10日の審査委員会だった。

 酒井氏は、そもそも約20万円は「紹介の対価ではない」と反論する。

「司法書士が取り扱える範囲が訴額140万円までなので、それを超える過払い金が発生する依頼者は、弁護士に引き継がざるを得ません。司法書士法人新宿事務所としては、それが依頼者のためなので、当然のことです。

 司法書士法人新宿事務所としては、大量の広告で依頼者を集め、貸金業者から取引履歴を入手して『利息引き直し計算書』を作成し、訴状を用意するなど、実際に大きな労力をかけた成果物を、私たちに渡してくれます。その成果物に対し、私たちが相応の費用を支払うのも当然のことではないでしょうか」

潰してやろうと虎視眈々と狙っていた

 司法書士が依頼者の相談に乗ったものの、140万円を超えるので、それまでに作った必要書類などと一緒に弁護士に渡す──それがどれだけ“悪いこと”なのか、私たちにはピンとこない。この懲戒事件の本質はどこにあるのか。取材で浮かび上がってきたのは、「広告を大量に打って依頼者を集める新興勢力」と、「それを抑え込もうとする旧勢力」の弁護士界内部の対立の構図だった。

 酒井氏は2010年、ベリーベストを設立。過払い金返還訴訟ブームで事務所を拡大させ、弁護士を大量に雇用し、大胆に広告を打って顧客を集め、2020年までに弁護士数で業界6位の大手にまで急成長した。

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