中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

今も生き残っている駄菓子屋は何が違うのか? 店主に「経営の秘密」を聞いた

「この店だけでやれるかといったらそれは無理」

 はたして経営の仕組みはどうなっているのか、井上さんに聞いたところ、まず、土日祝日は多くの客がやってくるため、売上はそれなりに立つそう。そして何より大きいのは、お菓子の卸を経営していることにあるのだそうです。(有)井上商事は、卸業と小売業(駄菓子店)の2つで成り立っていたのです。

「昔は相当な売り上げがありましたが、今は卸業もあまり芳しい状況ではありません。仕入れる際に条件が厳しくなっているのです。たとえば『10ボール』を『ケース』単位で買うことが求められたりするのです」

 ここで登場する「ボール」とは、小売店に陳列されている箱のことです。たとえばラムネが30本入っていたりするあの箱を「1ボール」といいます。そして「ケース」とはボールが10個~入っているもので、とにかく大量でなくては商品を仕入れさせてもらえないのです。そして井上さんはこう続けます。

「私は各小売店に商品を卸したうえで、残ったものを自分のこの店でも売らなくては商売が成り立ちません。この店だけでやれるかといったらそれは無理。このお店の規模だけでは、商品を仕入れることさえできないのです。今の駄菓子屋は卸が運営する、といったやり方をしているところが多いのではないでしょうか。そもそも駄菓子屋自体の数は激減していますが、なんとか残していきたいですね」

 経済産業省が発表している商業統計によると、駄菓子屋などが含まれる「菓子小売業(製造小売でないもの)」の2014年の事業所数は1万3975。それまでの20年間で7割以上も減少しています。

 かつて駄菓子屋は各所に存在し、子供達が放課後に集う場所になっていましたが、テレビゲームやスマホで遊ぶ子供が増えたことなど、遊びスタイルの多様化も減少の要因になっていると言われています。さらに塾通いをする子供が増えたことも影響しているでしょう。

この日、筆者が購入した駄菓子の数々

この日、筆者が購入した駄菓子の数々

 とはいえ、私が店にいる間、小学生や親子連れだけでなく、中学生男子の集団なども来ていましたし、くじを引く少年などもおり、この店は盛況でした。時代の流れとはいえ、駄菓子屋文化がこのまま廃れていくのはさびしいもの。これからもちょっとしたつまみを買いに通い続けようと思っています。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。

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